「Virgin Emotion」昴サジ昴 サジ誕(11/12月作成)


 「…やっぱり、此処に居たのか」
 ベイエリアの工事現場の鉄骨に腰掛けながら星空を眺める昴に下からサジータが話し掛ける。
 「何処に行ったのかと思ったよ」
 その声で其処から立ち上がると鉄骨の階段を降り、サジータの元へと歩きながら昴が返す。
 「抜け出してきたのか?今日の主役だろう?君は」
 昴がそう言うのも無理もない。
 今日は12月6日。 
 サジータの誕生日をシアターのカフェバーで皆で盛大に祝っていた。
 その主役が何故此処に居るのかという事だろう。
 「丁度良い頃合いだったから解散になったんだ。…いつ抜け出したんだよ?」
 「…ラチェットには声を掛けたさ。盛り上がっているのに水を差す訳にはいかないだろう」
 「まぁ、そりゃそうか」
 昴の言葉に頷くと、両手で口を覆うと息を吐いて手を温めて。
 自分の前で立ち止まった昴の両手を包み込む様に握るサジータ。
 「すっかり冷えちまっているじゃないか」
 「僕は元々、体温が低いんだ」
 サジータの手を払う訳でもなく昴が答える。
 「…やっぱり、ああいう賑やかなのは苦手なのか?」
 一人で抜け出していた昴を気遣う様にサジータが問う。
 「昴は言った。そういう訳ではないと。むしろあの喧噪は悪くないと思っている」
 「じゃあ、体調が悪かったとか?」
 どうにも昴が中座した理由が聞きたいらしいサジータに眉をひそめる昴。
 「…君には関係のない事だ」
 ─昴と出会った頃によく聞いた台詞。
 これ以上の詮索は止めろというサイン。
 久し振りに聞いたその台詞にため息を吐くサジータ。
 昴に秘密が多いのは解っている。
 昴の性格からいって、全てを言ってくれるとも思っていない。
 だが、まだ自分はその少しでも委ねては貰えないのだろうかと思う。
 「…アタシはさ。アンタの事を全部教えてくれって言ってる訳じゃないんだ。ただ、少しでもアンタの気持ちを聞いてみたいと思う。それは、アンタにとっては話す必要のない事かもしれないし、アタシの我が儘かもしれないけどさ。でもさ、今日は誕生日に免じて話してくれないか?」
 そう昴の目を真摯に見つめながらサジータが言う。
 サジータの真剣な表情に一息吐くと呆れた様な顔をして、昴が答える。
 「…全く。君はお節介だな」
 「そういう性分なんだな。悪いけど、諦めてくれ」
 肩を軽く竦めてそう苦笑するサジータ。
 「昴は言った。詰まらない話になるが構わないのかと」
 「そんなの聞いたアタシの自己責任だろ?」
 そのサジータの言葉に先程のサジータ同様に苦笑すると、昴は踵を返して歩き出した。
 どうやら場所を変えて話すという事らしい。
 その後をついて行く様に後から続くサジータ。
 程なくして海を臨める公園のベンチの前まで来ると昴は立ち止まった。
 「座って良いか?」
 サジータの問い掛けに短く「ああ」と頷いて、座ったサジータに背を向けて海を見つめる様に少し前に立つ昴。
 短く息を一つ吐いた後、ポツリと話し始める。
 「…昴は言った。僕は誕生日を祝う事に意味を見出せない。ましてや他人の誕生日であるのに何故に喜ぶのか昴には理解出来ない」
 その言葉に。
 地面を見つめる様に俯くサジータ。
 昴ならそう言うのではと心の何処かで思っていたのかもしれない。
 「─そう思っていた」
 少し間を置いてからそう言葉を繋ぐと懐から扇子を取り出し開いて、口元を隠す昴。
 (…思って、いた?)
 その言い回しにハッと昴の背中を見る。
 次の言葉を待っていると、振り返ってサジータの顔をまじまじと見つめて昴が言った。
 「…言いたい事があるんじゃないのか?」
 「…過去形なのかって思ってさ」
 サジータがそう指摘すると、扇子で表情を殆ど隠しているものの昴には珍しい戸惑った表情を少し見せて。
 「…そこが僕にも不可解なところでね。今日感じたこの感情の正体が僕にも理解出来ないでいる」
 「誕生日を祝う事も悪くないと思えたって事か?」
 「……そういう事になるのか。自分の誕生日でさえ感じた事のない感情で少し困惑している」
 その昴の言葉に。
 サジータは昴の腕を引っ張り自らの方に引き寄せると昴に抱きついた。
 「なぁ、それ!アタシをかなり思い上がらせるぜ?」
 込み上げる嬉しさを抑えきれないとばかりに満面の笑みのサジータ。
 「…どういう事だ?」
 説明を求めた昴の肩に手を置いてサジータが言う。
 「アタシがアンタの誕生日に嬉しいって思うのはさ。昴が生まれて来てくれたから今こんな風に一緒に過ごせているからなんだ。別々のとこに生まれて、今は同じ所にいる。それは偶然にしちゃ出来過ぎだ。でも、運命なんて言うには照れ臭い。誕生日にはさ、普段言えないそういう気持ちを全部伝えられるじゃないか。だから、祝われる方も祝う方も嬉しいんだ」
 「……………」
 「アタシの誕生日にアンタがそんな風に初めて思えたんだとしたら、こんな嬉しい事はないんだぜ?アタシはアンタの初めてのオンナって事だ」
 「…後ろの一言は余計だ」
 照れ臭いのか扇子を懐にしまうと目を逸らして昴が言う。
 「はは。悪いね」
 昴を引き寄せる様に首の後ろに腕を回すサジータ。
 サジータの腰に片手を回し指先でサジータの頬に触れる昴。
 「…これが皆が誕生日を待ち遠しいと思う感情だと言う訳か…」
 「納得いかないのか?」
 「いや…。理解出来る気はする」
 「アンタにしては曖昧じゃないか」
 上目遣いで昴を見つめてニヤとサジータが笑う。
 「曖昧になって当然だろう?…こういう感情は初めてなんだ」
 極まり悪そうに昴が答える。
 そんな昴の頬にキスをすると、再び昴に抱きつくサジータ。
 「この先もさ。こんな風にアンタが新しい事を知る度にそばに居るのがアタシだったら嬉しいよ…」
 「…それは君次第だな」
 相変わらずの憎まれ口にも照れを滲ませてそう言うと昴は小さく息を一つ吐いてから、いつもの表情に戻ってサジータを見つめた。
 昴のその表情に見とれるサジータ。
 「…なぁ、アタシの部屋で飲み直さないか?アンタと二人で誕生日を過ごしたいんだ」
 「…それも悪くないかもしれないな。付き合うとしようか」
 そう目を合わせてから。
 二人並んで歩き出す。
 気が付けば歩を合わせて寄り添っていて、穏やかな空気が二人の間に流れている。
 共に愛するハーレムへと向かいながら頬を染めてサジータが昴に問う。
 「…なぁ、今日は勿論泊まっていくよな」
 その問いに不敵に笑う昴。
 「…寝られると思わない事だな」
 目を合わせていなくても互いの表情は解っている。
 そういう事を幸せだと思いながら共に家路へと歩く。
 帰ってからの事に思いを馳せて笑みを浮かべて歌を口ずさんでみたり。
 そんな誕生日の過ごし方も悪くない。

 Happy Birthday Sagiitta!!

 

~あとがき~

サジ誕2011。初のサジ誕SSです。
いや、ピュアですね!(笑)
手を出さない昴さんとか動かなさ過ぎて書くのに時間が掛かりました。
この調子で普通尺の昴サジも書いて行けたら良いですね。

昴さんは新次郎やスターファイブに出逢った事でこれから色々な感情を知る事になると思います。
その度に戸惑って、その度に皆に教えて貰うと良い。
サジの誕生日なのに昴さんの話してますが、要はサジータはそういう包容力がありますよって言いたい。
笑い飛ばせるのも強さで優しさなのですよ。
サジータの可愛さを伝えたい今日この頃(笑)

サジータお誕生日おめでとう。
と、いうところで。

あ、タイトルはAXSさんの曲より。

コメント

  1. 杜一 さんの発言:

    サジータ誕生日おめでとうございます!
    昴サジの普通尺を読んでいたら私も書きたくなりましたw
    色々深読みし出すと止まらなそうなので今夜は我慢しておきます(´∀`*)

    素敵なSSをありがとうございました。

    動かない昴さんの意味が良く分かりましたwww

  2. コウヤ さんの発言:

    ありがとうございます!
    昴サジの普通尺楽しいですよ(*´∀`)
    いつもと違う感じに書けるのが(笑)
    今回は真面目にいちゃいちゃさせてみましたww

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