マリア誕2011 大神×マリア(11/06月作成)


久し振りに二人で横浜の街を歩く。
港まで来ると、潮風の薫りが強くなって大神は少し懐かしさを覚えた。
そんな大神に気付いたのかマリアが微笑んで言う。
「嬉しそうですね、隊長?」
「ああ。この匂いを嗅ぐと士官学校や洋上演習を思い出すからね」
「…隊長はその時に戻られたいと思うことはありますか?」
「 ん?どうしたんだい?」
マリアの唐突な質問に大神が問い返す。
「…久し振りに昔の夢を見ました」
そう苦笑したマリアを見つめる。
「露西亜に居た頃のかい?」
「いいえ」
頭を振るマリア。
「…じゃあ、紐育の?」
紐育に居た頃のマリアの話は大方聞いているが、その頃の事を話すマリアがとても自嘲的なのが切なくて深淵までは聞けずにいる。
だが、マリアがそれを許してくれるなら今がその機会なのかもしれない。
「…はい」
「聞いてもいいかな?」
全部を教えて欲しいとかそんなおこがましい事は思わない。
ただ、もし哀しみや辛さや苦しさがあるのならその少しでも分けて欲しいのにと思う。
「…つまらない夢の話ですよ」
「それでも、聞きたいんだ」
そう微笑んだ大神に弱く微笑み返すとマリアは海を見つめながら話し始めた。
「…紐育に居た頃、気に入って通っているバーがあったんです。その店で懲りずに何度も私に声を掛けてきた人が居ました。その頃の私は自暴自棄で生きている事に執着を見出せないでいました。でも、その人に何度か危機を救われていく内に此処で生きていくのも満更悪くないと思い始めていました」
そう海を見つめるマリアはその頃の紐育に思いを馳せているのだろう。
少し哀しみの入り交じった表情が瞳に浮かぶ。
「…その人の夢を見たんだね」
「はい」
そう頷いた後。
再び話し始めるマリア。
「…その人、ボードヴィル・グラスマンは私を庇って死んだんです」
悲痛なマリアの告白。
露西亜でユーリー=ミハイル・ニコラーエビッチを失い、紐育でもまたようやく得られた安息の場処になったかもしれないその人を失ったというのか。
神は何を思ってマリアにそんな試練を与えると言うのだろうか。
「─その時の夢を見たんです。息を引き取る刹那に私に笑顔を向けてくれたその人の夢を」
震えるその肩を抱き寄せる大神。
そして、静かに言う。
「君はその時に戻って、ボードヴィルさんに伝えたい事があるんだね?」
「そう…かもしれません」
その時に伝えられなかった言葉を抱えて、それでも生きろというのは酷なのかもしれない。
それでも、マリアは生きている事を選んでくれたのだと嬉しくなる。
「…そうだ。今度の長期休暇に紐育に行こうか」
「え?紐育、ですか?」
「ああ。君と一緒にボードヴィルさんに言いたい事があるんだ」
マリアの手を握りながら大神が言う。
「隊長が?ボードヴィルに、ですか?」
「ああ」
そう頷く大神。
マリアを見つめるその表情は穏やかだ。
マリアは大神のこの表情が好きだった。
この包み込むような寛さや暖かさや優しさで気が付けば救われている。
笑みを零しながら、マリアが返す。
「…はい。次のお休み、楽しみにしてます」
「ああ」
そうキスを交わして。
幸せそうに笑う。
次の休みの日には二人で紐育に行って。
好きだったかもしれないその人にただ一言を伝える。

(あなたが居たから生きて行こうと思えました)
(あなたが居たからマリアと出逢う事が出来ました)

「「ありがとうございました」」
─と。

~あとがき~

マリ誕2011でした。
誕生日とか全く関係ない話になってしまったorz
ああ、でもボードヴィルの事に触れられたので満足です(≧∇≦*)
マリア前夜を読み返していて、やっぱりボードヴィル好きだなぁと思いました。

そして、青ゲージですよ!キリッ
たまにはこういうお話を書きたくなります。
ん?たまには?(笑)

マリア、お誕生日おめでとう!!

コメント

  1. 杜一 さんの発言:

    マリ誕お疲れ様でした。大マリは書くのも読むのも考える事が多いカップルです。ありがとうと言える二人がとても素敵だと思います。
    最後の言葉がジーンと来ました。

    コウヤさんはいつも青ゲージだと思いますよwキリッ

    素敵なSSをありがとうございました。

  2. コウヤ さんの発言:

    ありがとうございます(*・ω・)
    大マリは真面目な二人なだけに本当に悩みます。
    とにかく、マリアを幸せにする為だけに書いているようなものです(*^^*ゞ

    え?いつも青ゲージですよ?w

  3. 鶴見真 さんの発言:

    マリ誕SS拝見しました~!
    ボードヴィルは私も好きなので「どうやって彼が出てくるのかな」とワクワクしながら拝見しました。
    彼はある意味「過去の人」になってしまうので、そこら辺の書き方ってすごく難しいなあと思うのですが(私は自作品を書くときそれで迷うことが多いので;)、コウヤさんの作品は彼のことを踏まえつつ温かい作品になっていて、本当に素敵だなあと感じました(*^^*)
    今年もマリアのお誕生日にコウヤさんの作品を拝見できて幸せです。
    ありがとうございます~!

  4. コウヤ さんの発言:

    >鶴見さん
    ありがとうございます(*^^*)
    そうなんです。ボードヴィルはやっぱり過去の人なのでどう出そうか悩みました。
    過去の彼との会話を挿入するか迷いましたが、大神さんが頑張ってくれました(笑)
    そして、勿体ないお言葉を!
    嬉しいです(≧∇≦*)

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