「突然の稲光と雨に」ロベ花 (10/08月作成)


突然の稲光と雨に立ち尽くす。
出先で突然降り出して、傘が無くて困っているのではない。
文字通り、立ち尽くしているのだ。
花火は、雨に打たれたままただ黙って遠くの空に亀裂のように走る稲光を見つめていた。
このままでは、風邪を引いてしまう。
早く雨を避けられる場所にと頭では解っているのに足が言う事を聞いてくれない。
まるで、足だけが石になってしまったかのようだ。
「何やってんだ?!アンタは!?」
聞き覚えのある声がして、そちらに視線を向ける花火。
「ロベリアさん」
呆然と立ち尽くしている花火の姿に、ロベリアは小さく舌打ちをして花火の前に立った。
「ほら、走るぞ」
そう花火の手を掴むロベリア。
「あ、はい」
言われるがまま、ロベリアに手を引かれて足を踏み出す花火。
あれだけ動かなかった足が不思議と軽くなってようやく動けるようになり、花火はロベリアに手を引かれるままに走った─。
 
 

「ほら」
そう花火にヴァン・ショー(ホットワイン。赤ワインを温めてレモン、蜂蜜等を入れたもの)の入ったカップを差し出すロベリア。
どうやら、花火がシャワーを浴びている間に用意してくれたらしい。
「ありがとうございます」
楽屋の自分の椅子に座って、ロベリアからカップを受け取る花火。
─ロベリアは花火の手を引くと、今日は休演日で人が少ないからとシャノワールへと向かったのだった。
ずぶ濡れの花火をグリシーヌの邸に連れ帰ろうものなら、何故こうなっただの何だのとグリシーヌが煩そうだからだとロベリアは言ったが、グリシーヌに余計な心配を掛けたくないという花火の気持ちに気付いていたからだろう。
雨で冷えてしまった体を温めて、花火がシャワー室から出ると脱衣籠には稽古着が置かれていた。
そう言うと機嫌が悪くなるが、何だかんだいってロベリアは面倒見が良いのだ。
「あの、」
「ああ。濡れた服は水を拭き取って衣装室のファンで乾かしてる。あと1時間もすりゃ乾くだろ」
自分はグラスでワインを飲みながらロベリアが言った。
「ありがとうございます」
「で?」
礼を言った花火にそう切り返すロベリア。
雨の中、何をしてたんだという意味らしい。
「…そう、ですよね」
どう説明をするべきなのか頭の中で言葉を探す花火。
「言いたくないなら別にいいぜ」
「そうではなくて…何と申し上げるべきか分からないのです」
「どういう事だ?」
曖昧な花火の言葉に怪訝そうに眉をひそめるロベリア。
「はい…。私が大切な人を失った時もあのように酷い雨と雷とに空が支配された日でした。あの日からまだそんなに時が経っていないというのに、それが何処か遠い日の記憶になっていっているような気がするのです」
「…………」
過去の辛い思い出を何処か淡々と話す花火を、ロベリアがただ見つめる。
「先程、雷を見つめながらその様な事を考えていましたら、足が動かなくなってしまったのです。あの日の事を過去の事として心の奥に鎮めようとしている私が罪深い人間だという事なのかもしれません」
「─アンタが罪深い人間だったらアタシは何だ?懲役1000年の大悪党だぜ?」
花火のその言葉に黙って話を聞いていたロベリアが、そう鼻で笑って一蹴する。
「誰だって、心に傷を遺しているような過去は持ってる。自分ではもう大丈夫だって思っていても、心がそれを記憶しているから同じような状況になった時に体が勝手に強張っちまう。ただそれだけの事だ」
「ただそれだけの事、ですか」
ロベリアらしい励ましに花火の口が綻ぶ。
花火だけがそうなる訳ではない、だから気にするなという事なのだろう。
「ああ。それに─」
そう花火をチラと見るロベリア。
「アンタはもうアタシのものなんだ。もうフィリップに渡すつもりはないんでね。どんな事をしても追い返すさ」
ロベリアのその言葉に花火の頬が紅く染まる。
「ったく。いつまでもアンタを離さないフィリップに腹が立つよ」
吐き捨てるように、珍しく拗ねるような口調でそう言ったロベリアに思わず笑う花火。
「ふふ。ヤキモチですか?」
「悪いかよ?」
憮然とそう返すロベリア。
「どうしたら、機嫌を直して頂けますか?」
そう聞いた花火にロベリアが口角を上げて、言う。
「そんなの決まってるだろう?」
「…そうですよね」
花火はそう頷くと、カップを鏡台前に置き、向かい側で座っているロベリアの前に立った。
そして、ロベリアの肩に手を置くと、顔を近付けるようにして屈んだ─。
 
 

~あとがき~

ロベ花第2弾でした。
花火さんカプではフィリップの事は避けて通れないと思ったので、ちょっと書いてみました。
この為に巴里前夜2を読み返したら、改めて花火さん今の方が人間味がありますね( ̄∇ ̄;
そして、相変わらず花火さんは灰色仕様です(笑

title by:Fortune Fate夏のお題「突然の稲光と雨に」

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