『CROSSWORD』昴×新(05/08月作成)

「新次郎……」
「は、はいっ。な、何ですか?昴さん」
昴に呼ばれて、慌てて返事をする新次郎。
心なしか声が少し上擦っているように聞こえる。
「昴は問う……。何故そのように緊張しているのか……と」
「い、いえ。その…」
昴にそう問われて口ごもる新次郎。
「どうした…?言ってみてくれないか?それとも、僕に言えないようなことなのかい?」
真顔でそう言う昴。
一体どこまで本気なのか冗談なのかが解らない。
「そ、そんなことはないですよ、決して!」
慌てて否定する新次郎。
疑われるようなことはないのに慌てて否定してしまうところは、かの高名な母方の叔父に似てしまったのだろうか。
「ふぅん…」
新次郎の顔をじっと見る昴。
「…昴さん、Sから始まる6文字でドキドキするものって解りますか?」
昴の何とも言えない視線に話を逸らそうと思ったのか、唐突にそんなことを言う新次郎。
「君もパズルをやっているのか?」
昴もそれ以上追求するのを止め、新次郎の話を聞く。
「まぁ、そんなところです」
「Sから始まる6文字でドキドキするもの……。S・E・C・R・E・T…シークレット…」
「ハズレです」
昴の答えに指でXを作ってみせる新次郎。
「おや、違うのかい?僕はてっきり君が僕に何か隠しているのかと思っていたよ」
「ひどいなぁ、昴さん。ぼくが昴さんに隠し事なんかする筈ないじゃないですか」
「そうだね。どうせ、すぐに僕に見破られるものね」
「はぁ、まぁ…って、違いますよっ。もうっ。話が変わってるじゃないですかっ」
「君がそういう風だから、つい…ね」
ふふ…と笑う昴。
昴はいつもそうなのだ。
気が付くと昴のペースになっていて、新次郎はどうにもからかわれているのだった。
「まぁ、別にいいんですけど」
ここでムキになるから、からかわれるのだとサラッと流す振りをする新次郎。
「いいのかい?」
昴にそう言われると、流してはいけない気がして来て新次郎は言い直した。
「…良くないです」
そういうところが昴のからかいの対象になっているという事に、本人は気付いていない。
「じゃあ、なるべく善処するようにするよ」
いつもの微笑を浮かべながら昴が言った。
「お願いしますよ、もう。…って、また話変わってるじゃないですかっ」
「おや、そうかい?」
「そうですよ…」
ハァ…と肩を落とす新次郎。
「…それで、パズルの正解はなんだい?」
「え?」
「君が言ったんじゃないか。Sから始まる6文字だよ」
「あっ、そう、そうですよね。Sから始まる6文字でドキドキするもの。それはですね…」
そう言うと、新次郎は昴をチラと見てから、一つ深呼吸した。
「?なんだい?」
そんな新次郎を不思議そうに見つめる昴。
「…それは、S・U・B・A・R・U─昴さんです」
「……僕?」
「はい。昴さんです。…昴さんに出逢ってから、ぼくはドキドキすることがたくさんあります。さっきも、名前を呼ばれた時にドキドキしてしまって、嬉しく なってしまって、返事をするのが遅れてしまったんです」
えへへ…と、いつもの照れ笑いを浮かべながら新次郎が言った。
そんな新次郎に対して、どうしていいか解らなくなったのは昴。
「ダイアナもそうだが、新次郎もすぐそういうことを言う…」
そうそうに態度を崩さない昴だが、ダイアナや新次郎のストレートな表現には滅法弱いらしい。
いつも流暢で美しい語調にも僅かではあるが、乱れが見える。
顔も少し赤面しているようだ。
こんな昴をサジータが見たら、いつもの仕返しとばかりにからかうことだろう。
「昴は悩む……。僕はどう返せばいいんだ?……と」
困ったような照れたような顔をして右手で髪をかき上げるお決まりのポーズを取りながら昴が言った。
そんな昴の顔を覗き込むように少し屈む新次郎。
「ねぇ、昴さん。ぼく思うんですけど、人と付き合っていく事ってパズルと同じなんじゃないかって。その人と一緒に過ごした時間がヒントになって、埋める 言葉はその人との思い出で。そうして浮かび上がってくる言葉はその人の意外な一面だったり、誰も知らなかった内面だったり、その人のいろいろな顔なんで す」
言葉を探しながら、一生懸命にそう話す新次郎に見とれる昴。
その表情は普段のクールな昴からは想像出来ないほど甘い。
もっとも、昴自身はそのことを自覚していないが。
「ぼくは、毎日ドキドキしながら″九条昴さん″というパズルを解こうとしているんです」
言ってから、「えへへ、ちょっとキザでしたね」と照れ笑いをする新次郎。
こういうところが、昴から主導権を奪えない要因なのだが本人は至って気にしていない。
いや、気付いていないと言うべきか。
「…いや、良い喩えだと思うよ」
優しそうに微笑みながら昴が言った。
その昴の言葉に新次郎が嬉しそうに笑った。
そして、昴が続ける。
「…君の言葉を借りるなら、僕も″大河新次郎″というパズルを解こうとしているんだ。しかし、君はとても変則的でいつだって僕の予想を超えてしまう…。 だから、僕は全然解答が導き出せないでいる…」
「ぼくだって、まだ全然ブロックが埋まってないですよ。まだ一部です。でも、昴さん。それでいいとぼくは思うんです」
「そうなのか?」
「はい。だって、ぼくたちにはまだまだ時間があるじゃないですか!ぼくたちを待ち受ける時間はそんな僅かなものじゃないでしょう?ぼくたちは始まったば かりなんです。たくさんの時間を一緒に過ごして、たくさんの昴さんを知りたい。ぼくはそう思います」
「…新次郎……。…それはプロポーズかい?」
新次郎をジッと見つめた後、クスと笑って昂が言った。
「えっ?あっ、そ、そういう意味じゃなくてっ。そのっ、えっと、そういう意味もあってっ。…じゃなくてっ。ああっ、もうどう言えばいいんだ~~」
降参と言わんばかりにしどろもどろになる新次郎。
「そんな情けない声を出すな。ふふ、冗談さ」
「ちょっ…、昴さん、またぼくをからかいましたねっ」
「まぁね。……半分、本気だけどね」
「え?」
「何でもない。…そうだね、僕たちには時間がたっぷりあるんだ。これから、少しずつ埋めていけばいいんだね。……それじゃ、早速君にヒントをあげるとし よう。マーキュリーにピアノを弾きに行くけど、一緒にどうだい?」
最後の方は照れ臭そうに少し赤面しながら昂が言った。
「はい!」
嬉しそうに頷く新次郎。
そして、凛と歩く昴の隣を並んで歩く。
彼らのパズルはまだ始まったばかりだ─。

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