嘘は嫌いだと彼女は言った。
明るくていつでも人を気遣って、でも自分のこととなると不器用で。
俺はそんな君が大好きだ。
君が俺をどう思ってるか判らないけど、俺は君だけを見つめているよ。
俺は嘘は言わない。
「…口に出して言えたら苦労はしないんだよなぁ」
日課である夜の見回りをしながら、ついぼやいてしまう。
本気にしてもらえないのが現実。
ため息をつき書庫の方を見ると、扉の隙間からうっすらと灯りが漏れている。
誰か…いるのか?
…とは言っても、こんな時間まで書庫にいる人物なんて一人しか思い当たらない。
扉を開け、そっと中に足を踏み込む。
やっぱり彼女だった。
「紅蘭…?」
名前を呼んでみたが返事が無い。
本に夢中になっているのか、それとも…。
部屋の奥に進むと、椅子に座って机に突っ伏している紅蘭を見つけた。
やはり、本を読んでいるうちに疲れて寝てしまったらしい。
「こんな所で寝たら風邪ひくぞ」
そう言って起こそうとしてはみたものの、あまりに気持ち良さそうに寝ているのを見て何だか気が引けてしまった。
…紅蘭の部屋まで運ぶか。
そう思って、紅蘭の横に立ってはみたものの、せっかく二人っきりなのを逃してしまうのは勿体無いような気がしてきて何となく紅蘭の正面の席に腰をかけた。
机に肘をつき、ぼんやりと紅蘭を見つめる。
…何か俺、危ないやつだよなぁ。これじゃ。
でも、すげぇ幸せ。
「紅蘭…、俺は君が好きだよ…」
思わず口を突いて出てしまった気持ち。
伏せているのが辛い気持ち。
もう抑えてなんかいられない。
「…大神はん…?」
寝言…?
いや決して寝言なんかじゃなく顔を真っ赤にして、紅蘭が身体を起こした。
「こ、紅蘭起きてたのかい?」
俺がそう聞くと、紅蘭は赤面したまま頷いた。
「…じゃあ、もしかして今の…」
「聞いてしもた…。」
何とも言い難い空気が書庫に漂う。
…仕方ない。
ここは俺の気持ちを解ってもらう良い機会だと思って腹をくくろう。
遅かれ早かれいつかは露見してしまうんだから。
「そっか…。でも本当のことだか。」
「…ちょ、ちょい急用を思い出したわ…っ。」
そう言って席を立ち、部屋を出ようとした紅蘭の腕を掴んでこちらに引き寄せた。
「お、大神はん?」
「…俺は紅蘭を好きだよ。だから、君の…紅蘭の気持ちを知りたい」
紅蘭を抱きしめ、問う。
「うちの気持ち…」
「そう、君の気持ち」
君の応えがどんなものであっても、気持ちは決して揺るぐことはないと解っているけど。
「…大神はんがうちみたいな…、」
「俺は君が好きなんだよ。君がいいんだ」
紅蘭の気持ちを遮ってそう言うと、紅蘭は俯いていた顔を上げた。
「そやけど…。信じられへん、そないな夢みたいなこと…」
不安そうな顔で俺の瞳を見る。
「…大丈夫。夢なんかじゃなく俺は紅蘭のことが好きだよ」
「大神さん…」
真実かどうかを確かめるように俺の瞳を見つめる紅蘭の顔は少し赤かった。
「嘘をついてるように見えるかい?」
見つめ返した俺の視線に照れくさいのか、紅蘭は少し伏し目がちで答えた。
「…ううん。嘘やない…」
「だろ?」
そう笑って見せると、安心したのか紅蘭から笑顔がこぼれた。
俺の好きな笑顔だ。
「…うちも…、うちも大神はんこと好きや…。大好きや!」
嬉しい、とても嬉しい、かなり嬉しい。
こんな嬉しいことがあるか?
「…ありがとう」
そう言って、再び紅蘭の肩を引き寄せ、抱きしめた。
「大神はん…」
「君は俺が守ってみせるよ。絶対に君のそばを離れない。君がいつでも笑っていられるように…」
「…うん!…」
君の笑顔があれば俺は幸せだから。
君が笑ってくれれば俺は強くなれるから。
紅蘭といると安心するんだ。
俺は此処にいていいんだと思えるんだ。
…何より俺が君のそばにいたいから。