暑中見舞い2010 大マリ「打ち水の涼」


帝都は本日も真夏日でその暑さの所為で優雅に銀ブラを楽しむ人々の姿もまばらだった。
普段から心身を鍛えている帝撃の面々を以てしても、この暑さは流石に堪えているようで南国育ちのカンナを除いて皆この暑さに閉口しているようだった。
そんな夏の夕暮れ時。
少しでも涼しくなればと中庭に水をまく大神。
そこに通り掛かるマリア。
「隊長」
水をまく手を止めて、大神が振り返る。
「マリア」
「打ち水ですか?」
「ああ。少しは違うと思ってね」
皆バテているようだからと大神。
そんな大神の気遣いが嬉しくて、マリアから笑みが零れる。
「ありがとうございます」
「礼を言われるほどの事じゃないよ」
マリアの感謝の言葉にさりげなく謙遜すると、大神は再び水をまき始める。
「そういえばさ─」
はたと何かを思い出したかのような大神。
「はい」
「マリアは泳げるようになったのかい?」
大神のその質問に苦笑しながらマリアが答える。
「以前よりはマシになりましたが、カンナのようにはまだまだです」
ここで、泳ぎが一番達者なカンナを引き合いに出すところが真面目なマリアらしい。
沖で沈没した船から泳いで陸地に辿り着いたカンナの強靱さには流石の大神でさえ舌を巻いたからだ。
「はは。俺だってカンナには及ばないよ。でも、まだ俺の方がマリアより泳げそうだね。安心したよ」
そう笑った大神に首を傾げるマリア。
「安心、ですか?」
「ああ。だって、まだ俺の出る余地があるって事じゃないか」
嬉しそうにそう言って、もう少し君に頼りにして欲しいからねと付け加えた大神にマリアの頬が上気する。
「もう、隊長ったら」
そんなマリアを愛おしそうに見つめながら、大神が言う。
「─米田さんにお願いしてさ。以前お世話になった熱海の旅館を二泊取って貰ったんだ。だから、来週は劇場を休みにして皆で行こう。すみれくんも呼んでね」
あの時みたいにバスで賑やかにねと笑う大神。
「皆、喜びますよ」
そう言いながら、自分も嬉しそうなマリア。
打ち水のおかげで涼しい風が頬を撫でて。
旅行の計画を皆に発表する瞬間の花組の歓喜の声を想像しながら、待ち受ける夏休みに思いを馳せる二人。
夏バテなど何処かへ行ってしまいそうだ─。

title by:Fortune Fate/夏のお題「打ち水の涼」

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