心地よいまどろみからふと目が醒めて、視界に見えるのが見慣れた自分の部屋であることを確認すると安心したようにグリシーヌは小さく息を吐いた。
喉の渇きを潤そうと起き上がったところで自分が何も身に纏っていない事に気付く。
少しずつ先ほどまでの記憶が蘇ってきて、グリシーヌは頭を振った。
そういえば、いつの間に一人になったのだろうか?
ボンヤリと部屋を見回すと、窓際で外を眺めながら彼女は佇んでいた。
シーツを巻き付けているとはいえ、月明かりに照らされたその肢体は艶めかしくて同性のグリシーヌでさえ思わず見とれてしまう感じで。
そんなグリシーヌの視線を感じたのかロベリアが振り返った。
「…起きたのか」
「ああ…。私はどれ位寝ていた?」
「さぁ?十分位じゃないか?」
「そこにずっと居たのか?」
「あんたの寝顔を見ていても良かったけどね。そういうのはアタシの趣味じゃないからさ。それとも、あんたはそうして欲しかったのか?」
ニヤと笑いながらロベリアが言うと、グリシーヌがすぐに反論した。
「そんな訳がなかろう!」
「そうだろうと思ってね。勝手にやらせて貰ったよ」
そう右手に持ったワイングラスを見せるロベリア。
「まさか持って来させたのではあるまいな」
「…まさか。それでも面白かったけどな」
低く笑ったロベリアに眉をひそめるグリシーヌ。
「馬鹿な事を申すな!」
「冗談に決まってるじゃないか。アタシが来る前にあんたが用意させたんじゃないのか」
ロベリアに言われて、記憶を確認するグリシーヌ。
つい数時間前の事なのにどこか遠い記憶のようだ。
「あ、ああ。そうであったな」
「おいおい。大丈夫かよ」
「問題ない…。少し失念しただけだ」
そう言うものの心ここにあらずといった感じで。
そんなグリシーヌを思案顔で見つめた後、ロベリアが言った。
「…なぁ。喉、渇かないか?」
「ん?あ、ああ。少し」
グリシーヌの返事を聞くと、ロベリアはグラスに口を付けた。
ワインを少し口に含むと、グリシーヌの顎を引き寄せ口づけた。
突然流し込まれたワインを本能的に飲み込んだ後。
思わずロベリアを突き飛ばすグリシーヌ。
「なななな何をするのだ…!」
「何って、あんたが喉が渇いたって言ったんじゃないか」
グラスのワインが零れないよう持ち直しながら、何でもない事のようにロベリアが答える。
「そなたが聞いたからだっ」
「あんたが忘れちまいそうだったからな」
「何だと?」
「いや、違うか。覚えていられないほど良過ぎたか?」
ロベリアのその言葉にグリシーヌの顔が紅く染まる。
「なな、何を言うっ」
「あははっ。当たりみたいだな」
声を上げて笑った後、グリシーヌの髪を自分の指に絡ませて。
囁くようロベリアが付け加える。
「…それは光栄だね。で、どうなんだ?」
そのロベリアの問いにグリシーヌが呟くように答える。
「…がなかろう」
「ああん?何だって?」
わざと聞き返すロベリア。
「…忘れる筈などない」
ロベリアを見つめるグリシーヌ。
「それを聞いて安心したぜ。」
そして、グリシーヌの頬に手をやるロベリア。
「…アタシとの時間を忘れる事は許さないよ?」
「…その言葉そっくりそのままそなたに返そう」
言った後。
フッと笑う二人。
「…さて、アタシは帰るとするか」
伸びをしながらロベリアが言った。
「帰るのか?」
「ああ。って、寂しいのかい?お嬢チャン」
「そ、」
グリシーヌの言葉を遮るようにロベリアが言う。
「そんな訳ない、だろ?解ってるよ」
「……ロベリア」
立ち上がろうとしたロベリアをグリシーヌが呼び止める。
「ああん?」
「…喉が渇かぬか?」
「本気かよ?」
思い掛けないグリシーヌの言葉に振り返るロベリア。
「喉が渇かぬかと聞いている」
ロベリアをじっと見つめるグリシーヌ。
「ああ。渇いてるね、カラカラに」
「そうか…」
ロベリアの手ごとワイングラスを引き寄せ、自らの口に付けるグリシーヌ。
ロベリアの頭を引き寄せ、その唇に口づける。
グリシーヌの流し込んだワインがロベリアの喉を潤していく。
唇を離した後、グリシーヌが言う。
「…まだ、足りぬのではないか?」
「フッ…あんたの勝ちだよ」
そう両手を上げるロベリア。
そして、続ける。
「でもな、ここのベッドは上等過ぎてとても眠れそうにないからな。一晩中起きてるかもしれないぜ?」
「…望むところだ」
「ヒュー。怖いねぇ。惚れ直したぜ」
嬉しそうに笑ってグリシーヌの顎を引き寄せるロベリア。
再びの甘美な時間がグリシーヌに訪れるのも時間の問題だ─。