「今日も大盛況でしたね!」
「ほら、エリカ。ちゃんと前見て歩かないと頭ぶつけるよ」
「へ?!いったーい!頭打ったぁ!」
「まったく、お前という奴はいつまで経っても成長せんな…。では花火、私は先にロビーで待っている」
「ええ」
花組のどちらかと言えば賑やかな三人が出て行って、二人だけになった所でロベリアが自分と同じく楽屋に残った花火の方を向いた。
「なぁ、花火」
「はい。なんですか?ロベリアさん」
呼ばれてロベリアの方を向く花火。
「お前、グリシーヌとは付き合いが長いんだよな」
それは唐突な質問だったけど、花火は理由を聞き返すことなく答えた。
「そうですね。もう十年以上になります」
「そいつは結構な長さだな。それだけ長いと、お互い気にくわない事だってあったんじゃないのか?」
そう言ってからロベリアは失笑すると、直ぐに前言を撤回した。
「いや、お前とあいつじゃケンカにならないか」
「ふふ、そうですね。私じゃグリシーヌの相手になりませんから」
そんなロベリアの言葉に花火が笑って答えた。
「…違うな」
「え?」
「あいつよりお前の方が大人だからさ」
ロベリアの言葉を受け流すように花火が言う。
「グリシーヌは正しいことしか言いませんから」
ロベリアもそんな花火を気に留める様子もない。
花火がそうする時は肯定の意を含んでいる時がほとんどだからだ。
「そうかぁ?アタシはダメだ。ああやって、正義だ何だって一方的に押しつけられると腹が立ってしょうがない」
「ふふ。グリシーヌは曲がったことが大嫌いですからね」
「あたしは曲がってるって言いたいのかい?」
ニヤと笑いながらロベリアが問う。
「さぁ、どうでしょう?ロベリアさんは方法が婉曲的なだけで、本質的にはグリシーヌと変わらないと思うんです」
「アタシとあいつが変わらない?」
「はい」
一見して睨みつけているように見えるロベリアに臆することなく頷く花火。
「く、くくっ」
その花火の様子に笑い出すロベリア。
「あはははっ。お前くらいだよ、そんなことを言うのは。ああ、誉めてるんだぜ?」
「ありがとうございます」
微笑みながら、頭を下げる花火。
「お前と話せて良かったよ。今度、一緒に飲もうぜ」
それは勿論、ロベリアの年下の友人に対する最上級の言葉で。
「私でよろしければ喜んで」
「ああ。楽しみにしてるよ。じゃあ、またな」
そして、楽屋の扉に手をかけるロベリア。
「あ。ロベリアさん」
何かを思い出したようにロベリアを引き留める花火。
「どうした?」
そう振り返るロベリア。
「グリシーヌには一歩引いてみると良いですよ。押されると強く出てしまうところがあるので」
「……何でそれをアタシに?」
そのロベリアの問いに笑みを浮かべながら首を傾げる花火。
「さぁ?」
勿論、あえて理由は言わないようだ。
まったく、油断が出来ない。
懲役1000年のこの自分と対等に渡り合える人間がいるのだから。
そんな花火に自嘲気味にフッと笑った後、ロベリアが言う。
「お前、やっぱり食えない奴だよ。でも、そういう奴、嫌いじゃないぜ。さっきの話、来週にしようぜ。じゃあな、花火」
「はい。楽しみにしてます」
そう微笑む花火。
楽屋を出て扉が閉まったのを確認すると、ロベリアは自分らしくもなく年下のしかも素人に会話の意図していたところを読まれてしまったことに対して、小さく舌打ちした。
そして、花火を味方につけておくに越したことはないと再確認したのだった。