『カウントダウンは二人で』
仕事を終え、デスクの上を片付けて、支配人室のドアをノックする。
サニーサイドに終業の報告をしたら、後は帰るだけだ。
「サニー、入るわよ?」
ドアを開けて、サニーサイドを見ると何やら深刻そうな顔でこちらを見ている。
何か不測の事態が起きたのかと、サニーサイドのデスクの前に向かうラチェットにも緊張が走る。
「─ラチェット」
ラチェットがデスクの前まで来たのを見計らってサニーサイドが口を開く。
「はい」
何を言われるのだろうと頷くラチェットの表情は硬い。
「一つ聞いても良いかな?」
いつになく真剣な表情のサニーサイドに、何を聞かれるのだろうとラチェットの鼓動が早まる。
「…ええ」
「君は今日はもう家に帰るつもりなのかい?」
サニーサイドの質問は何とも予想外で。
思わず聞き返すラチェット。
「何?」
「いや。だから、君はこのままもう帰ってしまうのかと聞いてるんだけど」
もう一度、言い直すサニーサイドの表情は真剣そのものだ。
それを聞いてどうするというのだろう。
それとも、自分でも気付かないうちに何かミスをしていたのだろうか。
「そのつもりだけど?」
そう言ったラチェットの言葉を聞くや否や大袈裟に両手で顔を覆うサニーサイド。
この様子では平和を脅かすような良からぬ事件が起きた訳では無さそうだ。
ホッとして小さく息を吐くラチェット。
しかし、そうなるとサニーサイドは何だと言うのだろう。
「ラチェット、僕は悲しいよ」
わざとらしく嘆きながらサニーサイドが言う。
大方、いつものジョークなのだろう。
「─サニー。あなたが何に対して悲嘆にくれているか知らないけど、そういうジョークなんだったら私は帰らせて貰うわ」
「ああ、何て酷い恋人なんだろうね。君は」
相変わらずのサニーサイドの態度に眉をひそめるラチェット。
「サニー、怒るわよ?」
「僕はね、ラチェット。明日まで君に会えないなんて孤独死してしまいそうだよ」
「と、突然何を言うのよ?」
沈痛な表情でそう言ったサニーサイドに不意打ちを喰らって、ラチェットの頬が紅く染まる。
「僕を孤独死から救ってくれるのは君しかいないんだよ、ラチェット」
ラチェットの手を握り、懇願するような目で見るサニーサイド。
そんなサニーサイドに呆れ顔でラチェットが返す。
「それで?」
「簡単なことさ。今夜はずっと僕と一緒に居てくれれば良い」
ラチェットの質問に即答するサニーサイド。
「今夜は僕の所に泊まって?」
満面の笑みでそう付け加えたサニーサイドにラチェットが言う。
「…まだ何か隠してるでしょう?」
「どうして、そう思うの?」
「あなたは何か隠してる時ほど、こういう芝居じみた事をするから」
ラチェットのその指摘に苦笑するサニーサイド。
「やれやれ。付き合いが長いというのも考えものだね」
肩を軽く上げて、参ったとばかりに手を挙げる。
「見破った君に敬意を表して言うよ」
そう言うと、立ち上がって。
ラチェットの前まで来ると傅くサニーサイド。
ラチェットの手を取り、その甲にキスを落とす。
「─誰よりも早く、君の誕生日を祝いたいんだ。明日になるまで待ってなんていられないんだよ」
─明日はラチェットの誕生日。
真っ先にラチェットが生まれて来てくれた事の感謝の言葉を自分が言いたい。
その役目は誰にも譲れないという訳だ。
「その為にあんな回りくどい言い方をした訳?」
「まぁね」
「…呆れた人」
「でも、あれも結構本気だよ。君が居ないと僕はダメだ」
立ち上がって、再びラチェットの手を取り指に口づけるサニーサイド。
そのサニーサイドの肩にコツンと額をつけ、ラチェットが言う。
「…ありがとう、サニー」
「じゃあ、今夜はずっと僕と一緒に居てくれるかい?」
改めてそう言ったサニーサイドに恥ずかしそうに頷くラチェット。
「ありがとう。嬉しいよ」
ラチェットの額にキスを返すサニーサイド。
─これから一緒に帰って。
極上のワインと少しの料理と。
他愛ない話をしながら、その時を待って。
カウントダウンを二人でして。
その瞬間はたくさんのキスをして。
どれほど感謝してもし足りない大切なひとが生まれて来てくれた事を祝う。
─そんな誕生日を過ごす。
Happy Birthday,Ratchet!!
…with love.
~あとがき~
ラチェ誕2010、サニラチェでした。
サニーさんは何が何でも「Happy BirthDay!!」と最初に言う権利を勝ち取りそうですよね(笑
お題を見た時にこれはサニーさんだろうと!
title by: TOY歯が浮きそうな20のセリフ「明日まで会えないなんて孤独死しそうだ」