『あふれるほどの』
花組の面々による盛大な誕生日パーティーが閉会となった後、大神とマリアは一階の客席に立ち寄った。
最前列の席に並んで座り、其処から舞台を見つめる二人。
春公演と夏公演の合間で休演中という事もあり、帝劇が誇る腕の良い舞台部による豪華な大道具も鮮やかな書き割りも凝った舞台装置も何もない。
「…マリアはさ」
舞台を見つめたまま、大神が呟くように言う。
「はい」
「初めてこの舞台に立った時、どう感じたんだい?」
大神のその質問に、
「そうですね…」
一拍置いて少し考えてからマリアが答える。
「…一番最初はただの義務で仕事としてしか考えていなかったので、ただ失敗しないようにと思っていました。今考えると余裕がなかったのかもしれません。…ガッカリさせてしまいましたか?」
苦笑しながらそう言ったマリアに、頭を振って大神が返す。
「いや。人それぞれさ。それを言ったら、俺だって最初はこれは軍人の仕事じゃないなんて思ってたよ」
赴任当初を思い出したのか懐かしそうに微笑む大神。
そんな大神に見とれた後、舞台に視線を戻してマリアが言う。
「…それが、これほどまでに舞台に魅了される事になるなんて思いませんでした」
そう舞台を愛おしそうに見つめる。
「ああ。本当にね」
頷いた後、おもむろに立ち上がる大神。
マリアの方を向き、手を広げて言う。
「『─例え、君が何処に行こうと誰のものになろうと僕の愛は変わらない』」
どうやらオンドレになりきっているらしい大神のその様子に思わず吹き出すマリア。
「君のようには決まらないな」
照れ臭そうに頭を掻きながら大神が言った。
「ふふ。結構、様になってましたよ?」
「はは。君に言われると心強いな。これはさ、俺が初めて君を意識した舞台なんだよ」
「そう、なんですか?」
嬉しそうにそう言った大神にマリアの頬が紅くなる。
「本番前にも君に見とれ過ぎて怒られてしまったしね」
「それはもう忘れて下さって結構です」
「はは。忘れられないな」
「隊長っ」
懐かしそうに思い出を語る大神。
その時の自分の態度を思い出して恥ずかしそうなマリア。
その表情はとても幸せそうで、お互いを信頼しきっているように見える。
「…忘れられる訳ないじゃないか。俺が君との事を忘れるはずがない」
最後は自信たっぷりにそう断言して。
「『─その山がどんなに高く険しくても今ならば越えられる』」
再び、オンドレの台詞をマリアに向ける。
「…そして、君を強く抱こう」
囁くようにそう言って、座るマリアの前で少し屈むと顔を近付け口づけた。
唇を離した後、言う。
「舞台に立つ君を見て、”美しい”とはこういう事を言うんだなと心底思ったよ。凛として、華やかで、そして危うくて」
「大神さん…」
「何より可愛らしくて、誰よりも愛おしい」
そう愛おしそうにマリアを見つめてから。
「そんな君に出逢えた事がとても嬉しい。本当にありがとう、マリア。君の誕生日が俺にとって特別な日になってもう何年も経つけど、君の誕生日を迎える度にそう思うんだ」
心からの感謝をマリアに伝える大神。
「…私もそうです。この日を迎える度に、あなたのそばにまだ置いて頂いている事を何よりも神に感謝しています」
控えめなマリアの言い方に大神の口が綻ぶ。
どれほど付き合いが長くなっても、マリアのそういうところは変わらないだろうと思う。
「俺の方こそどんなに神に感謝しても足りないよ。毎日が幸せで」
「大神さん…」
「一緒に神にこの感謝を伝えようか」
感激して目が潤んでいるマリアに微笑んで大神が言った。
「はい」
頷いて、大神の横に立つマリア。
二人で舞台の正面を向いて、目を閉じて祈る。
─願わくば、この幸せがいつまでも続きますように。
願わくば、大切な人が笑顔を失いませんように。
願わくば、また来年もこうして共に感謝をお伝え出来ますように。
─出逢えた事の感謝をたくさんと、わがままだけどささやかな願いを込めて。
С днем рождения!!
~あとがき~
マリア誕2010でした。
一番付き合いが長いけれど、一番悩む大神×マリアです( ̄∇ ̄;
新ラチェもそうなんですが、基本は真面目な二人だけになかなか進展がね(笑
一番最初に書いた大マリSSが「愛ゆえに」ネタだったので、原点回帰してみました。
13年も前のSSなんて読み返すものじゃありません…orz
まぁ、でも。
13年経って、うちの大神さんはどんどんしたたかになっていっている気がします(笑
そこが成長?(爆
と、いうところで。
title by: TOYネタに困ったときの20題(その2)「芝居がかった口調で愛を語ってみた」