「苦労するよね、ホントさぁ!」
不機嫌そうに菜箸を手に取りながら源三郎が言った。
「ご、ごめんね?」
苦笑しながらおずおずと食材を切る音子の手元は如何にも危なっかしい。
「(ああ、もうっ。手切りそうで怖いんだよっ)見てられない。…代わって」
音子をどかして包丁を握ると軽快な音を立てて均等に食材を切り分けていく源三郎。
それを感心して見つめた後、落ち込んだように肩を落とすと音子が言った。
「はぁ…女として源三郎くんに負けてるよね…」
「フン。そうだね!アンタより僕の方が料理が出来るなんてね!」
追い打ちを掛けるようにそう返してから、源三郎が小声で言った。
「…アンタはしつこいから料理巧くなるよ、きっとね」
「え?何て言ったの?」
「何でもない!ミヤビのバーカ」
(それに、ミヤビの料理は全部僕が貰うよ。誰にもあげないからね)