「ロベリアさん、お誕生日おめでとうございます」
ロベリアと会った所で花火が深々と頭を下げた。
「…何だ。知っていたのか」
「勿論、存じ上げていました。ですが、事前に騒がれるのはお嫌かと思いまして」
そう微笑んで花火が言った。
エリカたちが昨日まで散々騒いでいたのを知っていてこう言うのだ。
知っていたのかなどと下らない返しをした自分に舌打ちをして、ロベリアがげんなりとした表情で言う。
「やれパーティーがどうのとか、これはアタシに内緒だからあっちに行けだとか鬱陶しくて仕方ないね」
「…そうですか。では、これからどうされるのですか?」
「レナードんとこにでも行って飲むさ」
「…そうですか。それは残念です」
口ではそう言うものの表情はとてもそうは見えない。
そう強く引き留めるつもりもなさそうだ。
「で、アンタは何をしにアタシのとこに来たんだ?まさか、祝いの言葉を言う為だけに来た訳じゃないよな?」
「ふふ。やはり気付かれていたのですね」
アルカイックスマイルで答える花火。
「…まぁね。大方、アタシを見つけて連れて来いとでも言われたんだろう?」
「そうでしたが、ロベリアさんにその気がないのは判りましたので戻る事にします。それでは失礼しますね」
そのまま踵を返そうとした花火の腕を思わず掴むロベリア。
「それじゃあ、アンタが困るんじゃないのか?」
「それでも、無理強いはお嫌でしょうから」
…すっかり、ロベリアの性格を熟知しているのだ。
遠慮がちに微笑む北大路花火というその女性は。
「っち。アンタには負けたよ…。行きゃあ良いんだろ?行きゃあ」
「お嫌でしたらよろしいんですよ?」
「行くよ!」
何を言っても花火に肩透かしを食らいそうでロベリアは悔しそうに頭を振った。
「それでは、参りましょうか。ロベリアさん」
「…ああ。この借りは勿論後で返してくれるんだろうね、花火」
せめて一矢とそう付け足したロベリアの言葉に花火が更に返す。
「…ロベリアさんのお誕生日ですからね。…如何様にも」
どうにも苦々しい誕生日の始まりである。