情事の後に微睡んで、隣にあった筈の温もりがなくなったことに気付いて目が覚める。
目だけを開けて窓際に視線を遣ると、ワインの入ったグラスを傾けながら窓の外をぼんやり見ているロベリアの姿が見える。
いつもの事だ。
グリシーヌが目を覚ました時にはロベリアは隣に寝ていない。
いつだったかそのことについて問うてみたことがあるが、ただ一言
「アタシの勝手だろ?」
などと一蹴されてしまった。
目が覚めて隣が空いていた時の寂しさを解って欲しいと思うのだが、そのようなことを言えるグリシーヌではない。
そう言われて頷くよりなかった。
今一度聞いたとしても同じように返されるだろうか。
ましてやロベリアは同じ事を繰り返し質問されることがあまり好きではない。
下手をしたら不機嫌になってしまう。
思わず小さくため息を吐くと、ロベリアが窓の外から視線をグリシーヌに移した。
「起きたのか。毎度気持ちよさそうに眠るよな、アンタは」
揶揄するように言ったロベリアにグリシーヌの頬が恥ずかしさで紅く染まる。
「そ、そなたは相変わらずさっさとベッドを出てしまうのだな」
反撃をする振りをして何故そうするのかさりげなさを装えただろうか。
ロベリアをちらと見ると眉間に皺は寄っていない。
どうやら気付かれてはいないようだ。
「喉が渇いて起きちまうからね。何だ?寂しいのか?」
「そ、そうは言って居らぬ」
そう言っても顔が紅ければ、否定がかえって肯定の意だというのがバレバレだ。
「そうか。寂しいのか」
ロベリアはそんなグリシーヌの様子に口角を上げると、ベッドに片膝をついてグリシーヌの肩を抱き寄せた。
「これで寂しくないだろう?ククッ」
「ちゃ、茶化すなっ…」
肩を震わせて笑うロベリアにグリシーヌの顔が更に紅くなる。
やはりロベリアの方が一枚も二枚も上だ。
「…茶化さなきゃ良いのか?」
表情を一変させて目を細めたロベリアに、思わず見とれるグリシーヌ。
銀髪が窓から注ぐ月明かりに映えて、その色素の薄い瞳も整った面立ちも全てが。
嗚呼、美しいなと思う。
「全く狡いな、アンタは…」
見とれてしまって声を失っているグリシーヌにロベリアがぽつりと言った。
「狡い?それはそなたの方ではないのか?」
「言ってくれるじゃないか。アンタだって狡いさ。そんな顔をしてアタシを惑わせるんだからね」
「?私がどのような顔だと?」
何を言われているのか解らないとグリシーヌが首を傾げる。
「ったく、無意識なんだからアタシより余程手に負えないね。アタシを見ながら物欲しそうな顔をしてたってことさ」
「なっ…?!」
ロベリアの指摘にグリシーヌの体温が一気に上昇する。
恥ずかしさからシーツで顔を半分隠してロベリアをちらと見ると、にやにやと笑みを浮かべている。
「やるよ。アンタにアタシをさ。アンタが気の済むまでね」
そうグリシーヌの額にキスを落として囁いたロベリアに思わず目が潤んでしまう。
「それが約束、か?」
「…ああ」
グリシーヌの問いに頷くロベリア。
「そなたは約束は嫌いではないか」
「ああ、嫌いだよ。でも、今日はノエルだからね。神様に免じて約束してやる」
「ならば、もう一つ…良いか?」
「フッ…仕方ないね」
「…今度から私より先に目が覚めても…そのままベッドに居て欲しい…」
切なげな表情でグリシーヌが言うとロベリアは小さく笑って、グリシーヌの頬を指先で撫でて言った。
「寂しがり屋のお嬢チャンのたってのお願いだ。聞いてやる…」
「…ああ。頼む」
苦笑してから腕を伸ばすと、ロベリアを引き寄せ唇を重ねるグリシーヌ。
「ジョワイユ・ノエル…。そなたが居て幸せに思う…」
「…ああ。アタシもさ」
そう再び唇を重ねて、シーツに身を沈めた─。
(アタシだけ夢を見ているようで怖かったなんて言える訳がない。だから、先に起きて現実かを確かめていたなんて尚更ね)