「…中尉?」
気が付けば隣を歩いていた大神の姿が見えなくなっていた。
どうやらはぐれてしまったらしい。
この人混みの中でどう見つけろと言うのだろう。
ましてや、すみれはこの様な人混みは歩き慣れていない。
「どうしろと仰るんですの…?」
不安に襲われてそう呟き途方に暮れる。
雑踏で気が遠い。
思えば自分は一人では何も出来ないのだ。
この様な雑踏を歩く事すら儘ならない。
そんな現実を思い知らされ、すみれはため息を吐いた。
「ごめん、すみれくん」
聞き慣れたその声に振り向くと大神が苦笑して立っていた。
「…中尉、どちらにいらっしゃいましたの?」
嬉しさと安堵の息を堪えてそう返す。
「うん。さっき歩いていた時にすみれくんに似合いそうな物を見つけてさ。少しだけ戻って買って来たんだ」
表情を緩め大神が小さな包みを差し出す。
すみれはそれを受け取ると包みをそっと開けた。
上品な装飾の髪飾りが入っている。
「…気に入って貰えれば嬉しいんだけど」
そう笑った大神に見とれる。
不意打ちは狡いと言いたいのに言葉が出て来ない。
先程までの不安すら払拭して。
「……有難うございます」
そう返してそっと大神に寄り添うすみれ。
「でも…私に黙って居なくなるのはお止めになって下さいまし」
「…うん」
再び二人で歩き出すと同時にすみれは大事そうに大神からの贈り物を袂に入れた。