『足りない。幾ら抱き締めても足りない』
思わずため息を吐いた大神にマリアが心配そうな眼差しを向ける。
「…何かご心配事がおありですか?」
「そうだね…。心配事と言うよりも悩みかな」
苦笑しつつそう返した大神にマリアが遠慮がちに言った。
「私でよろしければお話しになって下さいませんか?」
マリアの申し出に大神の表情が緩む。
「ありがとう。でも、これは解決するのは難しいかもしれないな」
表情とは裏腹な大神の言葉にマリアの目が少し揺らぎ、声に深刻さを宿す。
「…隊長がそう仰るという事は深刻な問題なのですか?」
真剣な表情で問うマリアの頬に手を伸ばし撫でる大神。
「…隊長?」
「そうだね。俺にとっては深刻かな」
「…話しては頂けないのですか?」
マリアの瞳が更に不安の色を濃くする。
「俺を悩ませているのはね。…君なんだよ、マリア」
思い掛けない大神の言葉に言葉を失うマリア。
少しの間の後、呟く様に言った。
「…隊長の気に障る事でもしてしまったのでしょうか…」
俯くマリアを引き寄せると抱き締める大神。
「…むしろ逆さ。俺の心を捕らえて離さない。こんな風に抱き締めて、君に触れて。こんなに近くに君を感じられるのに、直ぐに君を欲してしまうんだ」
最後に「本当に困るよ、マリア」と付け加えて吐露した大神の告白にマリアの白い肌が瞬く間に朱に染まる。
「…こ、困ります。そのような…」
「困る?どうして?困ってるのは俺だよ?マリア」
恥ずかしさで大神から顔を背けようとするマリアの顔を覗き込んで大神が目を細める。
「…私も…隊長と……同じです…」
消え入るような声でマリアが答える。
「君も同じ…?君も足りないと思ってくれているのかい?」
改めてそう聞き返されると恥ずかしさが増して頬に感じる熱が更に強くなった気がする。
マリアは小さく頷くと顔を隠す様に大神の肩に顔を埋めた。
「そうか。君も俺と同じ気持ちで居てくれたんだね。嬉しいよ。ありがとう」
微笑んだ大神にマリアが苦笑して返す。
「でも、隊長の悩みは解決しませんね」
「はは。きっと解決しないだろうね」
「そう…なんですか?」
「ああ。君への想いはこの先もずっと積もり続けて、それどころか募っていく一方だからね。だから、この悩みは解決しないと思うんだ。…マリアはどう思う?」
顔を覗き込んで言った大神に
「知りませんっ…」
とマリアは赤面でもって肯定した─。