記号の存在に戻る事を何故にあれ程までに怖いと思ったのか。
自分の名前を縋る様に胸に留めた。
「…群れちまって甘くなっちまったか…アタシも…」
事件は収束を迎えたというのにあの女怪人の言葉を反芻して唇を噛みしめる。
「…何に拘っている…?」
そう呟き、眼鏡を指で押し上げ思わず目を細める。
自分の面倒だけ見ていれば良かったんだ。
闇に生きていた方が楽だったじゃないか。
「…何にほだされた…?」
そう独り言ちた処で耳がその声を思い出す。
「…ロベリア…っ…」
酷く欲情を掻き立てられるその声も。
「…ロベリア」
不安の色を見せるその声も。
「ロベリア…」
呆れた様なその声も、全て。
その声でアタシの名前が響くのが心地好くて、堪らなくて。
「…っち」
その事実に悔しくて舌打ちをする。
「…アイツが留めているのか、此処にアタシを。…くくっ」
込み上げる笑いに自分の肩を抱いて天を仰ぐ。
ああ、アタシはもうアンタを放せない。
嬉しい絶望にアタシはブランデーを注いで祝杯をあげた。