「あ・の・さ・あ!」
不機嫌さを前面に出して源三郎が眉をひそめて言った。
「え?」
その声に振り向くと音子は不思議そうな顔で首を傾げた。
「何で僕より先歩いてんの?直ぐにはぐれる癖にさ」
失笑しつつ呆れた様な口調の源三郎。
「ご、ごめんなさい。源三郎君と一緒に出掛けられるのが嬉しくて…」
(ちょっ…いきなり何言い出すのさ…?!)
音子の言葉に源三郎の頬が一気に紅をさして色づく。
「1人ではしゃいじゃってさ。落ち着きがないったらないね」
いつもの嫌みもその頬の所為で効果が薄い気がする。
「もうしょうがないなぁ、ほら!」
更に顔を紅くして音子に手を差し出す源三郎。
「早く!」
意味の通じてない音子にもう一度手を差し出して急かす。
「手繋いであげてもいいって言ってんの!」
思い掛けない源三郎の行動に音子の目が輝く。
「いいの?」
「でないと、アンタはぐれそうだし」
恥ずかしさからまともに顔を見る事も出来ずに口調だけ平静を装う源三郎に音子の口元が綻んだのだった。