「今月号はどっちの番やった?」
壁に貼ったカレンダーを見ながら世海が言った。
その質問にガサゴソと机の下を探り、目的の物を取り出してから昌平が答える。
「世海の番だな」
「ほうか。じゃあ、明日買うてくるわ」
「おう。頼んだ」
「へぇ」
明日は昌平と交互に負担して毎号買ってる雑誌の発売日。
この手の本は帝都に来るまでは買った事がなかったが、同室になって間もない頃に昌平から神妙な顔で付いてきて欲しいなどと言われ、それに付き合ったのがきっかけだった。
何か事情でもあるのかと共に出掛けたら何の事はない一軒の本屋に入り、周囲を気にしながら一冊の雑誌を手に取り見せてきた。
一人で買うのが恥ずかしいから一緒に会計に来てくれないかと言うのだ。
その代わり、お礼として先に見て良いからと。
昌平が余りに真剣に言うので頷いてしまった。
正直その手の本に興味がなかった訳でもなかったし、帝都の女性と懇意になる事もあるかもしれない。
予備知識として必要だと思ったのだ。
買ってきて部屋に戻って来た処で「約束だからな」と昌平から本の入った袋を渡された。
「一緒に見いひん?」
思わずそう言ってしまったのは、初めてそれを目の当たりにする衝撃を一方的に見られたくなかったからかもしれない。
「そ、そうか?」
「へぇ。買うたのは僕じゃあらへんし」
「そうするか」
袋から雑誌を取り出し、昌平の顔をチラと見ると緊張の表情で雑誌に視線を向けている。
頁を捲る世海にもその緊張が伝染ってきて、指先が湿り始める。
「…もしかして、おめぇこういう本は初めてなのか?」
硬い表情の世海の顔を覗き込む様に昌平が言って、世海も目を細めて返す。
「は?あんさんこそ」
「………」
顔を見合わせて互いを探り合う。
色事の経験があるのか否か。
…暫くして。昌平が観念した様に口を開いた。
「ま、おめぇに付き合って貰ってる時点でこっちの分が悪ぃよな。ばらしてる様なもんだ」
昌平の告白に世海も応える。
「僕かて詳しゅうはないんよ?本見んのも初めてやし」
「そうか」
「じゃあ、まぁ一気に見ちまうか!」
「そうどすね」
そして、二人で『帝都ロマネスク』に見入るという妙な時間を過ごし、女性の好みは違ったものの妙に気が合い、数ヶ月が経ってみれば。隔月で本代を負担する事になっていた。
こういう事に関して同じ様な年の頃だと言うのが大きいのかもしれない。
ただ困る事も勿論あって。
読後に襲われる熱の込み上げる感覚を互いに持て余して、部屋が静まりかえってしまうのだ。
それに耐えられずに戯れに接吻をした事が二人にはある。
唇を離した後に何とも言えない恥ずかしさが込み上げて二人して赤面した。
それ以来、接吻はしていない。
ただ冷めるのを待つ。
再びカレンダーに目線を遣って溜息を吐いた世海に弦を張り替えながら昌平が聞く。
「浮かねぇ顔して風邪か?」
「大丈夫どす」
(接吻からこっち、意識したはるんは僕だけやないやろ?)
「そうか?」
(接吻の時の世海の顔が浮かんじまってこいつはまずい)
二人の思惑のその先が繋がるのは近い未来か否か。