いつもは几帳面に伸ばされた洗濯物が干してあったり、犬たちが走り回ったり、ヒューゴが本を読んでいたりする其処も朱傘を立て深紅の毛せんを敷いただけで別空間に見えるから不思議だ。
背筋をピンと伸ばし、伏し目がちに茶筅を手にする相部屋の同居人も上品で優雅に見えて来て昌平は固唾を呑んだ。
「随分、緊張したはるなぁ」
そんな昌平を揶揄する様に世海が言う。
「る、るせぇ!」
「もっと気を楽にしておくれやす。おぶはそないゆうもんどすし」
正座をしつつも緊張でガチガチの昌平に穏やかに笑みで返す。
その笑みすらも何かいつもと別人に見えて、思わず見とれてしまう。
「…どないしたん?」
「な、何でもねぇ!」
(おめぇがいつもと違う様に見えるなんて言える訳ねぇだろうがっ)
「?そうどすか?だいぶ略式やし、畏まれへんでええのに」
首を傾げて言った世海に更に見とれると昌平は大きく息を吐いて。
「大体、何でわざわざこんな大袈裟にするんでぃ?部屋でも良かったじゃねぇか」
昌平のその質問にふっと空を見上げる世海。
「…そうどすなぁ。今日はお天道さんのご機嫌が良かったさかい」
「だから、外で茶なのか?」
「へぇ。気分転換にならへん?」
そう微笑んだ世海に釣られる様に昌平からも笑顔が零れる。
「だな!それにしたって野点の一式なんてよくあったじゃねぇか」
朱傘と毛せんを見つめながら昌平が感心した様に言う。
「笙さんに相談したら貸してくれはった」
「笙さんホントに何でも揃えてくれるよなぁ」
「…どすなぁ」
一瞬の間の後、二人で顔を見合わせて声を出して笑った。
「ほんま、ええお天気どすねぇ…」
「ああ。良い天気だ」
そう二人で空を見上げて微笑んだ。