「暑い!何なの毎日毎日」
そう文句を言って中庭を歩いていると思い掛けず後ろからバシャッと頭から水を掛けられた。
不測の事態に思考が一時停止して立ち竦んでいると、背後から能天気に笑う声。
「気持ちいいだろ?源三郎!」
勿論、僕にこんな事をしてくる人物は一人をおいて居ない。
「は?」
そう聞き返すとあっけらかんと笑って。
「暑いって言っただろ?」
「言ってたけど水掛けてなんて頼んでないし!兄さんの所為でずぶ濡れだよ。風邪引いたらどうするのさ?!」
水でじっとりと濡れた着物に照り付ける陽射しが当たって何とも生温くて気持ち悪い。
「これくらいで風邪引くか?!」
「僕は兄さんと違って繊細だからね」
「好き嫌いが多いからだろ?」
「ちょっ…!好き嫌いは今は関係ないでしょ?!」
このままいつもの言い合いになるかと思っていたのに、兄さんは突然に顔を近付けてきて額を合わせてきて。
「大丈夫だろ。んなに冷えてねぇし。熱出たら看病してやるよ」
急にそんな事を言うから僕の体温は意図せず上がってしまった。
「少し熱いか?」
そう指摘され慌てて兄さんから離れる。
「熱くないっ。でも、じっとりして気持ち悪いから着替えてくるっ…」
踵を返して顔を隠すと後ろから
「熱出たらいつでも言えよな?源三郎」
妙に優しい声で言うから更に顔が熱くなった。