「思い出の、」
「そういえば─」
シーの代わりに秘書室でメルの仕事を手伝いながら、何を思い出したのかそう切り出す大神。
「?はい」
「アレってどうした?」
唐突にそう問われたものの何のことだか分からないメル。
思わず、作業していた手が止まる。
「アレ、ですか?」
「ほら、前に君が持ってたあの写真だよ」
そう言われて。
急にその時の記憶が蘇る。
シャノワールの前で皆で撮った写真のことだ。
ただし、メルの手によって何ともいじらしい細工済みだが。
「君が、」
「…それ以上は結構です」
説明しようとした大神の言葉を遮るメル。
その顔は紅い。
「思い出してくれた?」
「…どうして今更、あの写真なんですか?」
恥ずかしさから非難めいた表情でメルが聞く。
そのメルの質問に照れ臭そうに鼻の頭を掻いた後、大神が答える。
「あの写真を見てしまってから、君のことを考えない日は無かったからかな」
「確かに自分でもやり過ぎたかもとは思いましたけど…」
「そういう意味じゃなくてね」
「え?」
「それまでも俺は君のことを好きだと思っていたけど、あの写真を見た時にそれをハッキリ自覚したんだよ。だから、それを伝える為に絶対に君の所にまた帰って来ようと思ったんだ。俺にとって、あの写真はその思いを強くしてくれた大切な物なんだよ」
だからこそ急に気になってね、そう照れ臭そうに笑った大神に見とれるメル。
「…からかうとかそういうのじゃないんですよね?」
「ああ」
確認するようにそう言ったメルに頷く大神。
どうやら、大神には本当にそういうつもりはないらしい。
メルは引き出しの鍵を開けると中から写真立てに収められたそれを取り出した。
「…何だか捨てられなくて」
苦笑しながら、写真を見つめるメル。
椅子から立ち上がって、メルの机の前に行く大神。
「─ああ。この写真だ」
懐かしそうに写真を眺めて、言う。
「これで、君のことが忘れられなくなったんだ」
そう言われて、メルの顔が再び紅くなる。
「…でも、確かにメルくんがこういうことをするとは思ってなかったんだけどね」
悪戯っぽく笑ってそう付け加えた大神をメルが非難する。
「!や、やっぱりからかいたかっただけなんじゃないですか」
「はは。ごめん」
そんなメルに笑いながら謝ると、何かを思いついたのか大神が言う。
「─そうだ。今度の休み、一緒に写真を撮りに行こうか」
思い掛けない大神の提案にメルの頬が上気する。
「今度は、ちゃんと二人でね」
「…ちゃんと、は余計ですよ?」
拗ねたようにそう言いながらも、嬉しそうなメル。
そんなメルを見つめる大神の表情も穏やかだ。
「それじゃ、決まりだね」
「はい」
そして。
再び作業に戻る二人。
仕事をしながらもどこか機嫌良さそうなのは、次の休みに思いを馳せているからだろう─。
~あとがき~
ただいちゃいちゃ第5弾。またまた、大神×メルです。
写真ネタはいつか書きたいと思っていたので、やっと書く事が出来て嬉しいです(*’ ‘*)
title by: TOY恋の始まり「君のことを考えない日は無くて、」