「前から大好きだったけど」新ラチェ(10/05月作成)

『おたがいさま』

ふと夜中に目が覚めた時に目に飛び込んで来る景色が自分の部屋でないことに一瞬戸惑い、直ぐに此処が彼女の部屋だという事を思い出す。
すぐ隣で静かに寝息を立てて眠るラチェットを起こさないようにそっと体を起こす新次郎。
こんな風にラチェットの部屋で夜を過ごすのは今夜が初めてではない。
もう何度目になるか判らないのに、どうにもこの感覚に慣れない。
夢なのではないかと思ってしまう。
傍らで眠っているラチェットの温もりを確かに感じて、ようやくこの状況が現実だと実感する事が出来るのだ。
自分の腕の中で抱き締めて、そのひとの全てを自分のものにして。
どれほどそれを繰り返しても、どうにも現実味がない。
それだけ。
自分には手の届かない存在だと思っていた。
幸せそうに眠るラチェットの髪にするりと指を通すように触れる。
「…大…河…くん…?」
浅い眠りだったのかその感触で夢の向こうから目を覚ましたらしいラチェット。
「す、すみません。起こしてしまいましたね」
慌てて手を引っ込める新次郎。
申し訳なさそうに言う。
「お水、飲みますか?」
「ええ。お願い出来る?」
ラチェットの返事に頷くと新次郎はサイドテーブルに手を伸ばし、そこに置かれたチェイサーからグラスに水を注いでラチェットに差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
少し起き上がって新次郎からグラスを受け取るラチェット。
シーツを巻いたラチェットのその肢体に見とれる新次郎。
水を飲み干すその仕草もその姿の為か妙に艶めかしく見える。
そんな新次郎の視線に気付いたのかグラスから口を離して、ラチェットが首を傾げる。
「どうしたの?」
「い、いえ。その」
「大河くん?」
「ラチェットさんがあまりにお綺麗だったのでつい見とれてしまって…。すみません」
「そ、そう」
「はい…」
目を合わせて赤面する二人。
恋人同士になって、少しずつ親密になって、こんな風にベッドを共にするようになっても、この妙なこそばゆさは変わらない。
お互いに慣れないのだ。
そんな空気に上乗せするかのように新次郎が言う。
「ぼくはラチェットさんが好きです」
「…ありがとう」
新次郎のその言葉に嬉しそうに微笑むラチェットの耳は紅い。
「でも、こんな風にあなたに触れられることを奇跡なんじゃないかってまだ思ってしまうんです。ラチェットさんは憧れて焦がれても手が届かないと思っていた方でしたから」
そう苦笑した新次郎にラチェットが言う。
「それはお互い様ね。私だって、あなたがスターファイブの誰かじゃなくて私を選んでくれるなんて思ってもみなかったもの」
「”お互い様”ですか」
ラチェットの言葉を噛みしめるように繰り返す新次郎。
「そうよ?」
あくまでも対等だと言わんばかりのラチェットに新次郎の口が綻ぶ。
「ぼくはもう本当にあなたが大好きですけど、あなたとこんな風に過ごす度にその気持ちがもっと大きくなっていきます」
「ありがとう、大河くん。でも、それも─」
「─お互い様、なんですよね?」
そう笑ってキスを交わす二人。
「大好きよ、大河くん」
「ありがとうございます。ぼくもですよ」
そして、再び顔を近付ける二人。
夜が明けるまでは、まだ少しの猶予がありそうだ─。

~あとがき~

考えてみれば、新ラチェでこういう話を書いた事がないような気が。
ただいちゃいちゃさせたいだけです(笑

title by: TOYバカップル20題「前から大好きだったけど」

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