黒鬼会を倒し、その首謀者である京極慶吾を倒し、一年に渡って繰り広げられた戦いにも終止符が打たれた。
そして、帝都にも再び平和が訪れた。
こうして見ている限りは帝都には何事もなかったように見えるし、そんな戦いがなかったようにも感じられる。
川沿いの土手に腰掛け、見事なまでに咲き誇っている桜を見つめながらそんなことを思う。
そういえばこの美しい花と同じ名を持つ少女と出逢ったのも、丁度こんな風に桜が青空にとても映えていた日だったんだ。
…もう、三年になるんだなぁ。
さくらくんと初めて会ったときから。
会う度に違う顔を見せてくれる彼女。
彼女のひた向きさに救われることがよくある。
「君がいてくれるから、俺は正しいんだって思えるよ…」
その真っ直ぐな瞳で見ていてくれるから…。
「どうしたんですか?大神さん」
聞き覚えのある声がして後ろを振り向くと、そこにはさくらくんが立っていた。
噂をすれば何とやらってやつかな。
それにしても…、
「さ、さくらくん。いつからそこにいたんだい?」
全然気が付かなかった…。
まさかさっきの独り言、聞かれてないだろうな。
「くすくす。今来たばかりですよ、大神さん。何を慌ててるんです?…それとも、あたしが来ちゃいけない事情でもあるんですか?」
いかん、何か誤解されてるぞ。
「そんなものあるわけないじゃないか。さくらくんこそどうしたんだい?散歩かい?」
「はい。空が晴れていて気持ち良かったので、どうせなら桜を見たいと思って川伝いに歩いていたんです。そうしたら、大神さんが土手に座っているのが見えたんです」
…よかった。
さっきのは聞かれていなかったみたいだ。
変な誤解をされるところだったけど。
「俺もこうして桜を眺めていたんだ。今年もこうやって美しい桜を見ることが出来て良かったなぁ、って…。それから…、君と初めて出逢った時のことを思い出していたんだ」
満開の桜の木の下で花びらが風に舞っていた。
そうして俺たちは、出逢った。
「あたしも、大神さんと初めてお会いしたときのことを思いながら歩いていたんです。丁度、こんな日だったな、って…」
「うん。丁度こんな感じだった」
俺がそう言うとさくらくんも嬉しそうに頷いた。
「「桜が満開の上野公園で」」
今考えると何だか小説の中みたいな出逢い方だったなぁ…。
妙に現実味がなかったというか。
「物語みたいな出逢いでしたよね…。あ、あたしが勝手にそう思ってるんですけど」
こういう風に同じことを同じときに考えられるのってすごい。
感じ方が同じなのって嬉しい。
思わず笑いが漏れる。
「大神さん?」
突然笑い出した俺をさくらくんが不思議そうな顔で見つめている。
「あ、いや、ごめん。今、俺も君と同じことを思ってたから」
「…え?」
「物語みたいな出逢いだったね、って」
まるで桜の花が君を守っているみたいだった。
桜の加護を受けているみたいに君はあの場の空気に溶け込んでいた。
「大神さん…」
「俺はさくらくんが好きだなぁって思うんだ」
おれのこの言葉にさくらくんは頬を赤く染めて俺の顔を見た。
「だってさ、こんな風に自分と同じ感じ方を出来る人ってわずかだよ。出逢うのもすごい確率だと思うんだ。ましてや、こんなに近くにいるなんてそれはすごいことだよ」
「…ええ!あたしもそう思います。それが自分の好きな人だったりしたらすごく嬉しいですよね」
満面の笑顔でさくらくんが言った。
君のそういうところが大好きだって思う。
「うん…。俺はそんな君と出逢えたことがすごく嬉しい」
隣に腰掛けているさくらくんの肩を引き寄せた。
「…大神さん」
君と寄り添いながら見る桜はまた、とても美しくて。
これからもずっとずっとこんな風に桜を見ることが出来ればいいと思う。
同じ風に桜を見つめている君に見とれている。
ある暖かい春の日の午後。