『恋と愛との曖昧な境界線』新昴(09/01月作成)

「例えば、其れを。」

恋が淡い想いだと言うならば、そんなものは疾うに通り越してしまった。
愛が深い想いだと言うならば、其れに近いと言えるかもしれない。
だが、正直その確信はない。
何故ならば、未だかつてそのような想いを感じ得た事がないからだ。
客観的に理解は出来るから、役者として演技をする上で問題はない。
だが、それを自分に置き換えた途端に理解不能になる。
考えれば考えるほど、混乱を来すこの感情は何だ?
そもそも、その境界線はどこにある?

「どうしたんですか?昴さん」
そう僕の顔を覗き込む新次郎。
「何故だい?」
「いえ、何が考え込まれているようでしたので」
僕はそういう事を他人に悟られない人種だと自負してつもりだ。
何故、気付かれたんだ?
「…何故、君はそう思ったんだい?」
「昴さんは考え事をされていると、扇子を一定のリズムで開閉する事が多くなるんです」
『いつも見てるから気付いたんです』と照れ臭そうに言った新次郎。
僕とした事が何たる失態…。
自分でも無意識のうちにそんな事をしていたなんて。
しかも、其れを新次郎に気付かれてしまうなんて。
「………」
「お気に障ったようでしたら、すみません…」
決まりが悪くて二の句が継げずにいる僕の態度を、怒っているように感じたのか新次郎が申し訳なそうな顔で言った。
「…君が謝る事はない」
「でも─」
「僕が僕に呆れているだけだ。だから、君が気にする必要はない」
「何故です?」
「何がだい?」
「昴さんが昴さんに呆れているって事です」
僕の言葉に疑問を持ったらしい新次郎が僕を見つめた。
まったく、これだから子どもで困る。
しかし、ここで素直に聞けてしまうのも新次郎であるが故にか。
「解らないかい?」
「はい」
「昴は言った。誰だって全てを晒せる訳ではないだろうと。まして近しい間柄なら尚更そう思うものだろう?」
なるべく動じずにいられるなら、その方が良いに決まってるじゃないか。
「そうですか?ぼくはそれに気付いた時、嬉しかったですよ。ぼくだけが気付いていればいいなぁって思いましたよ」
「どういう事だい?」
「だって、昴さんがぼくと居る時はそれだけ心を許してくれているって事じゃないですか。無意識に何かしている時って緊張状態じゃない時でしょう?」
新次郎は子どもだ。
素直な言葉は何よりも心に響く。
正直、気付かされる事も多い。
でも、認めたくない事も多いのだ。
「…確かに君の言う通りかもしれないな。無防備でいられる人間は限られている」
「はい。だから、ぼくは昴さんにまた一歩近付けたみたいで嬉しいです」
新次郎は子どもだ。
言葉を素直に出し過ぎる。
正直、困惑する。
でも、不思議と心が浮き立つのだ。
素直にそれを認めてしまうのは悔しいから、嫌みの一つでも言っておくとしようか。
「まぁ、君は僕に気を緩め過ぎだと思うけど?」
「え?ええっーー?!た、確かに、ぼく昴さんに格好悪いところばかり見せてますけどっーー」
案の定、情けない声を出す新次郎。
「おや、違うのかい?」
「違わないですけどっ。酷いですよ、昴さんっーー」
「さて、僕はこれからランチに行くけど君はどうする?」
「あっ、行きます!」
立ち上がった僕についてくる新次郎。
当面は僕に優位にいさせてくれるかい?新次郎。

恋と愛との曖昧な境界線。
朧気ではあるが、それが解った気がする。
全てを見せられる様になったら愛と呼べるのかもしれない。
それを、少しずつ出し惜しみしている内は恋なのかもしれない。
少なくとも、僕はそう理解した─。

~あとがき~

ここのところ昴新多めだったので、久々の新昴です。
昴さんは案外子どもだと思うので、優位に立ちたがるといいと思います。
むしろ、新次郎の前でだけムキになったりとかして欲しい。

えぇと。
相当、無理がありますが。
お題、これにて任務完了。
終わったーーー。

title by:dix/恋をした2人のためのお題『恋と愛との曖昧な境界線』

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