「熱視線-Yeux de la passion-」
バシィッと楽屋に響く乾いた音。
カシャンと吹き飛んだ眼鏡が床に落ちる。
「…貴様っ、何を…っ」
そこにあるのは驚愕と怒りの間でロベリアを睨みつけるグリシーヌの姿。
「やれやれ、ご挨拶だね」
グリシーヌのその表情も気に留めていない様子で、打たれた頬をさするロベリア。
「…どういうつもりだ…」
怒りに声を震わせるグリシーヌ。
「どういうつもりも何もそのままさ。あんたにキスをしようとした。未遂に終わっちまったけどな」
フンと自嘲気味に笑いながら、悪びれる様子もなくロベリアが答える。
「…どういうつもりなのかと聞いているっ…!」
語調を強めるグリシーヌに、態度を改めるどころか不敵に笑って。
「それはアタシがあんたに聞きたいね」
ふてぶてしくドカッと椅子に座るロベリア。
「何の事だ…?」
挑戦的なロベリアの態度に不快感を露わにするグリシーヌ。
「気がついてなかったなんて言わせないよ」
グリシーヌの腕を掴んで、ロベリアが続ける。
「今日だけで、何度あんたと目が合ったと思ってる?それも、今日だけじゃない。ここ最近、ずっとだ」
「…何の事を言ってるのか分からぬ」
「へぇー。じゃあ、あんたは無意識でアタシを見てたってことか」
ニヤニヤ笑いながら、グリシーヌを挑発するようにロベリアが言った。
「そなたの勘違いだと言っているっ…!」
「ふーん…。あんたに言わせると、偶然でアタシと何回も目が合ったって訳だ」
「…そうだ」
「…ふっ…あははははっ」
突然笑い出すロベリア。
笑った後。
掴んでいたグリシーヌの腕を自分の方に引き寄せた。
「何をする…っ」
急に引き寄せられて、ロベリアの膝に乗る格好になってしまったグリシーヌ。
慌てて立とうとしたところを、ロベリアがその耳元に口を寄せる。
「…なぁ、知ってるか?そう何度も目が合うってのはな。偶然なんかじゃないんだよ」
「…なら、何だと言うのだ…」
「ふん。そんなの決まってるじゃないか。あんたはアタシを、アタシはあんたを目で追ってたって事さ」
「…何を馬鹿な事を…っ」
「アタシだってそう思ってるさ。でも、あんたはアタシのこの手を振り解けないでいる。それが証拠だろう?」
「……っ……」
ロベリアの言葉に唇を噛みしめ、俯くグリシーヌ。
「何も言い返せないかい?」
「……黙れ」
「いいぜ。黙ってやっても。どうせ、あんたの答えは解ってるんだ」
「…何だと…?」
含みのあるロベリアの言い方に眉をひそめたグリシーヌの顎を引き寄せると、ロベリアはその唇に口づけた。
「……っ……」
あまりの事に呆然と目を見開くグリシーヌ。
唇を離すと、ロベリアはニヤと笑って言った。
「これがあんたの答えってやつさ」
「……さぬ」
我に返り、ロベリアの手を振り払い立ち上がると、グリシーヌはロベリアを睨みつけた。
「貴様だけは許さぬ…!」
「はいはい。許してくれなくて結構。でも、これであんたも解っただろう?あんたはアタシの手を振り解けない。いや、むしろアタシを欲してるんだよ」
「うるさい、うるさい、うるさい…!」
ロベリアの言葉に悲痛な表情で頭を振るグリシーヌ。
「その様な戯れ言もう聞きたくないわ…!」
「戯れ言ねぇ…。そう言ってる割には、あんたはそれで片付けたくないんじゃないのか」
「もうたくさんだと言っているっ…!」
「なら、どうして泣いてるんだよ?」
「泣いてなどいない…!」
涙を隠すようにロベリアに背を向けて。
「ああ、そうかよ。それじゃ、あと一つだけ言わせて貰うよ」
「…………」
「アタシはあんたが欲しいよ。あんたがアタシを憎んでてもね」
そして、椅子から立ち上がり部屋を出て行こうとするロベリア。
「……本気で言ってるのか…?」
呟くようにそう言ったグリシーヌに、振り返ってロベリアが言う。
「ジョークならもっと笑えるやつにするさ」
「……私はどうすればよい…?」
「あたしが答えていいのかい?」
「…そなたは答えを知っておるのだろう?」
縋るような目でロベリアを見つめるグリシーヌ。
「…ああ」
静かに頷くロベリア。
「簡単な事さ。あんたはアタシの手を取ればいい」
そして、グリシーヌに手を差し出す。
「…そうか。それだけか…」
おずおずとロベリアの手に触れるグリシーヌ。
「ああ。それだけだ」
その手を強く握り返して自分の方に引き寄せ、囁くようにロベリアが言う。
「…もう逃がさないからな。覚悟しろよ?」
「…もう逃げられないのだろう?覚悟は出来ている」
交わす視線。
近付く二人。
そして─。
~あとがき~
…と、いうことでロベ×グリでした。
えー…、楽しかったデス。
結局、グリシーヌを泣かせちゃいましたが( ̄∇ ̄;
ふと振り返ってみたら、うちのグリシーヌは泣かせてばかりでした。
ごめん、グリ(苦笑
でも、ロベグリで泣いてない図が思い浮かばないんだもの(笑
いや、大神さんでも泣かせてるんだけど。
もとい。
グリシーヌ真面目だし、相手ロベリアだし、葛藤しない訳ないし。
以前書いたSS『呪縛』の完結編とでも言いましょうか。
一応、最後はね。
手を取らせてしまいました。
今後はきっとみんなと一緒の時はいつも通りで、二人きりの時はデレなんだと思います(笑
あ。
書きたいかも(爆
title by:dix/恋をした2人のためのお題『気が付いてなかったなんて言わせない』