暖かい春の日差しの下でこうしてると、何故だか解らないけど幸せな気持ちになる。
加山じゃないけど『平和っていいなぁ…。』って感じだ。
帝劇の屋根の上に寝そべりながらそんなことを思う。
「あれ?隊長じゃねぇか」
声のした方向を見ると、カンナも屋根に上ろうとするところだった。
「カンナ、君も来たのかい?」
そう言うと、カンナは軽快な足取りでこちらに向かい、そして俺の隣に座った。
「ああ。天気が良かったから少しでも太陽に近いところにいたいって思ってさ」
「はははっ。カンナらしいな」
うん、本当にカンナらしい。
こんなに天気がいいとじっとしているのが勿体無いっていうのもあるしな。
「へへっ、そうかい?そう言う隊長こそどうしてここに?」
照れくさそうに髪をかきあげてカンナが言った。
「俺か?俺はここから銀座の街を眺めていたんだ」
「銀座を?」
「ああ。ここからだとよく見えるだろ?街が活気に満ち溢れているのがよく解るんだ」
帝鉄のブレーキ音や蒸タクのエンジン音。
人々の笑う声。
そんな騒々しさがたまらなく好きなんだ。
平和だからこそある音、だから。
「…なんて顔をするんだ」
「え?何か言ったかい?カンナ」
声が小さくてよく聞こえなかった。
「な、何でもねぇよ」
「そっか。…ところで、カンナ。顔が少し赤いけど熱でもあるのか?」
俺がそう言うと、カンナは顔をますます紅潮させて俺から顔を逸らした。
「た、隊長の気の所為じゃねぇ?それにあたいが風邪なんてひく筈ないだろ」
「はははっ。確かにそうだな。」
確かに風邪もカンナが相手じゃ逃げ出してしまうかもしれない。
カンナはそれほど元気で、何よりも豪快なのだ。
俺はカンナのそういうところが好きだし、ずっと変わって欲しくないと思う。
「おっ、言ったな隊長。少しは否定してくれよ」
「悪い、悪い」
カンナと話していると楽なんだ。
変に気を遣わなくていいというか、別にカンナが男っぽいからとかそういうのでなくて、カンナの持つ特有の雰囲気とか空気がそう感じさせているんだと思う。
「…それにしても、ホント良い天気だよなぁ」
空を見上げながらカンナが言った。
「…ああ」
「…さっきさ、隊長がここから街を眺めてるって言ったときさ」
「うん?」
「隊長、すごく嬉しそうに笑っていたんだ。それであたい、つい見とれちまって。…なんて、ガラにもねぇけどさ」
俺の目を見ながら、でも落ち着きなさそうに髪をいじったりポケットに手を入れたりしてカンナが言った。
こういうときにやっぱりカンナも普通の女の子なんだと思う。
意識なんてしてなくても何でもないときに女の子らしさっていうのは出て来るものなんだ、きっと。
それが俺に対してだっていうのは何となく嬉しい。
俺しか知らないカンナの一面を見たような気になる。
「カンナ…」
そう言ってカンナに手を差し出すと、カンナは少しためらいがちに自分の手を差し出した。
「へへっ。何か照れるな、こういうのって」
「でも、たまにはいいだろ?」
「まぁ、悪くないかもな…」
手を伝わってカンナの気持ちが流れてくるようで嬉しい。
それはまだまだ恋なんて呼べるものではないけれど。
面と向かっては気持ちを伝えられないけれど。
君と共に同じこの帝都の空の下に在るのだから、それだけでも俺は幸せなんだと思う。