「かーやーまーくん」
珍しいかえでの口調に、思わず目を通していた書類から顔を上げる加山。
目の前に突きつけられる一枚の写真。
満面の笑みを湛えたかえで。
「可愛いコね?」
その一言で加山の手にじわと嫌な汗が滲む。
「どこで、そちらを?」
「そこに普通に置いてあったわよ?」
どうやらジャケットの胸ポケットから出して、しまい忘れていたらしい。
口調こそは穏やかで口だけは笑っているが、目が笑っていないかえで。
正直、何を言われるのだろうと考えるだけで恐ろしい。
「リ、リトルリップシアターの女優さんですよ。ファンなので、その、ブロマイドを買ってしまいまして」
しどろもどろにそう説明する加山にいつもの冷静さはない。
かえではその写真─ピンクのドレスに身を包んで恥じらいながらも可憐に微笑む金髪の少女のブロマイドをマジマジと見つめた。
「…確かに可愛いわよね。それでシアターの女優さんだったら、話くらいはしたの?」
「それが、もの凄く恥ずかしがり屋と言いますか人見知りと言いますか。口をきいて貰えないんですよ」
言ってから。
ハッとする加山。
「ええと」
「何?」
貼り付いているような笑顔で聞き返すかえで。
二の句を継ぐには少し勇気が要りそうだ。
任務とは違った緊張感を肌で感じながら恐る恐る加山が言う。
「浮気、とかじゃないですよ?」
「あら。私はそんなことは一言も言ってないわよ?」
自爆。
「それとも、あなたはそのつもりだったのかしら?」
更に微笑むかえで。
「い、嫌だなぁ。そんなはずないじゃないですか。俺にはかえでさんだけですよ」
これでは、まるで浮気の弁解だ。
「いいのよ?私は別に」
「ですから、ただファンなだけなんですってっ」
そんな加山を思案顔で見つめるかえで。
情けない顔をしている加山を見つめると、妙に可笑しくなってきて思わず笑ってしまう。
「ふふっ」
「かえでさん?」
「ごめんなさい。ちょっとからかってみたかっただけなの」
かえでのその言葉に一瞬考えた後、安堵の息を漏らす加山。
「…そうだったんですか」
「ええ。でも、少し妬けてしまったのは本当よ」
そう苦笑するかえで。
「そうなんですか?」
「確かに彼女可愛いもの」
「そうですけど。俺はかえでさんが妬いてくれたことの方が嬉しいんですが」
すっかりいつもの調子に戻って加山が言った。
「すぐそういうことを言うんだから」
「だって、今のは聞き逃す訳にはいきませんよ」
「あなたの疑惑だって晴れた訳じゃないのよ?」
いつもなら形勢はすぐに逆転するというのに、今日のかえではなかなか手強い。
眉をハの字にして苦笑する加山。
「どうしたら、信じて頂けますか?」
「そうね。─じゃあ、10月21日には私のそばにいること。それでいいわ」
そう言ってから、少し赤面したかえでを加山が見つめる。
恐らく、初めからそのことを言うつもりだったのだろう。
だから、写真はきっかけに過ぎなかったのかもしれない。
加山の口が自然と綻ぶ。
「御安い御用です」
「それじゃ、これは返すわ」
嬉しそうに微笑んでから。
そう写真を加山に差し出すかえで。
「はい」
苦笑しながら受け取って、再びジャケットの胸ポケットにしまう加山。
そんな加山を胸中複雑な思いで見つめるかえで。
(大神くんの言ってた通り、彼女が大河くんだって本当に気付いてないのね。まったく、困ったひとだわ)
かえでは小さくため息を吐くと、心の中で新次郎に謝ったのだった─。
加山×かえででした。
たまにはかえでさんからアクションを起こしてみよう企画。
いえ。単に加山のプチミントに対する盲目っぷりが酷いので(笑)、ネタにしたくなっただけです(^_^;
あまり誕生日っぽくはなりませんでした。
いつもより、糖度が低めになってしまいました。反省。
加山誕では糖度高めになるよう頑張ります(* ̄0 ̄*)ノ