「いつもの時間に、此処で」
『ビービービー…』
時計の針が定刻を示すと同時にそれは鳴る。
どこかおかしいところはないか鏡で最終確認をしてから、かえではそれ─キネマトロンの通信ボタンを押した。
ザーッというノイズと共にそのディスプレイに徐々に彼の顔が映し出されていく。
「こんばんわ、かえでさん」
「おはよう、加山くん」
ディスプレイ越しに交わす挨拶。
月組隊長である加山が霊子甲冑用武器の輸送と紐育華撃団の補佐役として渡米してから、既に一年以上が経っていた。
有事や特に忙しい時以外、こうして週に一度決まった時間に通信をするのが加山が紐育に行って以来のかえでと加山の習慣になっていた。
ディスプレイ越しではあるが一週間振りに見る加山に変わったところはない。
また1週間無事でいてくれたことにホッとする瞬間だ。
「ねぇ、加山くん」
「はい」
「今、何してたの?」
それを聞いて安心する訳ではないけれど。
何から話していいか判らなくなって、つい咄嗟にそう言ってしまう。
すると、加山は決まってこう答える。
「そうですね。あなたのことを考えてました」
「あなた、毎回そんなことを言ってよく飽きないわね」
本当はそんなに悪い気はしないのだが、どうにも素直に受け取れなくて憎まれ口を叩いてしまう。
「飽きないですよ。だって、本当のことですし」
かえでの返しを気に留める訳でもなく、当然のことのようにそう言う加山。
そして、続ける。
「ところで、かえでさんは何をされてましたか?」
これも毎度のお決まり。
ここで素っ気なく仕事をしていたと答えれば、彼の思惑からは外れるのだろう。
実際、そうしてみたこともある。
でも、何だかんだと彼のペースに乗せられてしまい結局結果は同じなのだ。
それに、自分がとてもあまのじゃくで可愛げがないように思えてきて少し憂鬱になる。
「何をしてたと思う?」
それでも、素直に答えてしまうのは少し悔しい気がして、かえでは逆に問い返した。
「それを俺に聞くんですか?」
苦笑まじりに加山が言った。
「ええ。そうよ」
自分の方が年上だというのに、この恋人ときたらいつだって余裕で。
少しは困らせてやろうと思う。
「俺が言っていいんですね?」
ところが、加山。
困るどころかニヤと笑って。
「ええ」
そう頷いてはみたものの、何となくいつものパターンに持ち込まれているような気がする。
それじゃあ、と前置くと加山は言った。
「俺のことを考えていた。──当たりですか?」
自信ありげにそう言い放つ。
一体いつからこんなに不敵になったのだろう。
「あなたはそう思うんでしょ?」
そんな加山に呆れ顔でかえでが言う。
「はい」
満面の笑みで頷く加山。
「じゃあ、間違いないわね」
「あら、認めちゃうんですか」
あっさり肯定するような態度のかえでに意外そうな顔で加山が言った。
「だって、それ以外認めないでしょ?」
「勿論」
かえでの質問に即答する加山。
そんな加山に肩をすくめて、かえでが言う。
「反論しても仕方ないじゃない?」
「反論があるんですか?」
「ないわよ?」
「じゃあ、よかった」
そう微笑む加山。
こういう瞬間。
どうして近くにいないのだろうと切に思う。
そんなことを彼に言える筈はないのだけれど。
それに、それを口にしてしまったら今の自分の均衡も崩れてしまいそうで。
「…そろそろ、寝ようかしら」
「…じゃあ、俺も仕事を始めることにします」
一瞬の間にお互い思うことは同じで。
その一言を口に出さない為に話もそこそこに切り上げる。
「おやすみなさい、かえでさん」
「おやすみなさい、加山くん。今日も一日、しっかりね」
そう微笑むかえで。
「その一言だけで、一週間頑張れますよ」
そう笑う加山。
そして。
「それじゃ、」
「一週間後ね」
最後の挨拶は決まって、その一言。
「「いつもの時間に、ここで」」
また一週間、その人の居ない毎日が始まる──。
~あとがき~
久々、加山×かえでです。
…というか、2作目の加山×かえでです(笑
何だか歯切れ悪い終わり方してますが、一応話は別のお題に続きます(^^;)
時間的には信長倒した後くらいの感じでお願いします。
ホントに加山はいつまで紐育に居ないとなんですかねぇ?
加山は私の中ではこんな感じです( ̄∇ ̄
普段のアレは”昼の顔”ですから。
って、”夜の顔”っていうのも何だ。イヤだな…(笑
まぁ、大神さんより攻めっぽいってことで(爆
title by:dix/恋をした2人のためのお題『今、何してる?』