突如として始まったそのゲーム。
言い出したのは誰だったのだろうか。
酒の席の事だったのは間違いない。
其処に居たのはロベリアと昴、そしてマリアの三人。
ルールはただ一つ。
与えられたミッションを遂行する事。
題は当日になるまで秘密。
当然、それぞれの猫たちにも秘密。
昴からマリアへのお題は『キスだけで泣かせる事』。
さて、どうなる事か。
─最後はマリアのターン。
昴からのカードを一瞥すると、マリアはそれを破りホテルのダストシュートへと放り込んだ。
(…難しくはないけど、どうしましょうか)
部屋に戻って、ソファで読書をするかえでを見つめる。
「…用はもう済んだの?」
本から顔を上げ、戻って来たマリアにかえでが言う。
「はい。大した用ではなかったので。…ところで、かえでさん」
「なぁに?」
「…寂しくはなかったですか?」
「だって、すぐに戻って来るって言ってたじゃない」
マリアの質問に本を閉じてから、答えるかえで。
それをチラと何やら思案顔で見つめるマリア。
「…そうですか」
そう言った後。
かえでの手から本を取り上げるとパラパラとページを捲り、テーブルに置くマリア。
「?」
マリアのその行動に不思議そうな表情のかえで。
「…嘘吐きですね、あなたは。やっぱり寂しかったんじゃないですか」
「え?」
「…栞の挟んである位置が、先ほど私が部屋を出る前と同じページでした」
思い掛けないマリアのその指摘にかえでの顔が羞恥心で一気に朱に染まる。
「どうして嘘を吐かれたんですか?」
「だって…」
言葉を濁したかえでの顎を上へ向かせ、唐突に唇を奪う。
「…ん…っ…」
歯列を舌でなぞり、舌を絡ませて、吐く息を全て飲み込んで。
「……っ…」
熱さと共に酸欠による息苦しさで唇を離そうとするかえでの腰を押さえて唇を捕らえて離れるのを許さないマリア。
「…マ……リア……」
苦しさの合間で目に涙を浮かべながらマリアにキスからの解放を請うかえで。
その表情を見て満足げに微笑むとマリアはようやく唇を離し、酸欠による目眩で倒れ込んできたかえでを受け止めた。
「…嘘を吐いた罰です」
「…だって…それ位の、時間も待てないって、あなたに思われたく、なかったから…」
少しずつ息を整えながら、かえでがマリアの胸に顔を埋めながら言う。
「そんな事思わないですから、嘘は吐かないで下さい。…まぁ、可愛い嘘だったので許しますけど」
マリアはそう言うと微笑んで、かえでの目に浮かんだ涙を指で掬い取り、額にキスを落とした。
「…ごめんなさい」
「もういいです。…それより、体が温まったんじゃないですか?」
囁く様にそう言ったマリアに耳まで朱くしてかえでが控えめに頷いて。
「…では、もっと熱くして差し上げますよ」
口角を上げるとマリアは、かえでの耳朶を甘噛みした─。
(まぁ、キスだけで止めるとは書いてないものね…)