突如として始まったそのゲーム。
言い出したのは誰だったのだろうか。
酒の席の事だったのは間違いない。
其処に居たのはロベリアと昴、そしてマリアの三人。
ルールはただ一つ。
与えられたミッションを遂行する事。
題は当日になるまで秘密。
当然、それぞれの猫たちにも秘密。
ロベリアから昴へのお題は『サジータを甘~く起こす事』。
さて、どうなる事か。
─次は、昴のターン。
昨夜ロベリアから渡されたカードを破り捨てると、昴は未だベッドで夢の中にいるサジータに目をやった。
(さて、どうしたものか…)
そもそも、サジータの寝起きの悪さと言ったら毎度呆れるばかりでどうしようもないのだ。
「…サジータ、起きろ」
そう声を掛けるが、案の定何の反応もない。
(…やれやれ)
毛布にくるまって寝ているサジータの髪に触れ、そっと撫でる。
「…ん…すば…る?」
髪を撫でられている感触で昴だと気付いたのかサジータが寝惚けた声で言った。
「そろそろ、起きたらどうだ?」
「…まだ…早くないか…?」
目を再び閉じて腕で顔を隠したサジータにため息を吐く昴。
「…キスをしたら起きるか?」
思い掛けない昴の言葉に、一気に脳が起きたのか目を開け昴の方を見るサジータ。
「いつもは強請らないとしてくれないのに今日はどうしたんだよ?」
「たまには方法を変えようかと思ってね。だが、目が覚めたみたいじゃないか」
「いや。まだとても眠くて、アンタのキスがないと起きられないよ」
とてもそうは思えないハッキリした声でそう言うと目を閉じてみせるサジータ。
これでは、大していつもと変わらない。
(結局、いつも甘やかし過ぎなのだろうな…)
自分の甘さを今更ながらに痛感しながら、苦笑する昴。
(本当ならこれで突き放すべきなんだろうが、今日はそうはいかない)
「…君はキスだけで良いのかい?」
そう指で唇をなぞる様に触れると、サジータの表情が更なる期待に満ちて変わって行く。
「…体も起こしてくれるのか?」
目を開けて熱い視線を昴に向けて。
「…君が起きてくれるならね」
「じゃあ、起こしてくれよ。アンタの熱で」
「直ぐに目が覚めるさ…」
毛布を捲って腕を伸ばすサジータに誘われる様に自らのネクタイを緩めると、昴はサジータに顔を近付けた─。
(…まぁ、起こした事には変わりは無いだろう)