突如として始まったそのゲーム。
言い出したのは誰だったのだろうか。
酒の席の事だったのは間違いない。
其処に居たのはロベリアと昴、そしてマリアの三人。
ルールはただ一つ。
与えられたミッションを遂行する事。
題は当日になるまで秘密。
当然、それぞれの猫たちにも秘密。
マリアからロベリアへのお題は『グリシーヌに似合う花を贈る事』。
さて、どうなる事か。
─先ずはロベリアのターン。
マリアからの題が書かれたカードを見ながら、ロベリアは舌打ちをした。
証拠隠滅とグリシーヌに見えない様にカードを燃やす。
「どうかしたか?」
一瞬のロベリアの苦々しい表情を見たのかグリシーヌが言った。
「いや、何でもない」
「そうか?なら良いが。まさか私に隠し事でもしているのではあるまいな」
大抵の事には鈍い癖に何故こういう時に限って妙な勘が働くのだろう。
思わずそう口に出しそうになるのを堪えて、ロベリアはグリシーヌの肩を自分の方に引き寄せた。
「…アタシがアンタに何を隠すって?」
わざと耳元で囁く様に言うと、グリシーヌの顔が紅く染まる。
「き、気の所為ならいい」
「そうか?」
グリシーヌのその顔を見ながら、口角を上げるロベリア。
どうしてこうも思い通りなのか。
全く可愛いと思う。
普段ならばここで抱き締めて、その表情が恍惚としたものに変わるのを眺めるところだが今日はそうはいかない。
それに没頭してゲームどころではなくなってしまうからだ。
何より、昴とマリアに負けるのが癪だ。
二人とも、回りくどい様な言い方で神経を逆撫でしてくるからだ。
「…ああ、でもそう見えた詫びをさせてくれるか?…そうだな。花なんてどうだ?」
唐突過ぎるロベリアの提案に驚いた顔を隠さずにグリシーヌが言った。
「ど、どうしたのだ?そなたが花などと…」
「たまには良いじゃないか。恋人同士だったら普通に贈るもんだろ?」
その”恋人同士”という言葉にグリシーヌが嬉しそうに頬を染めたのを見逃すロベリアではない。
興味なさそうな素振りを見せる癖に、年相応と言うべきか意外とこういう事が好きなのだ。
すかさずグリシーヌの頬に手を添え、言う。
「…アンタは何の花が好きなんだ?」
その問いに恥ずかしそうに目を伏せると、ロベリアの手に自分の手を重ねるグリシーヌ。
「…薔薇が…薔薇の薫りが好きだ…」
頬を染めてそう言ったグリシーヌの髪にキスを落とす。
「…じゃあ、アタシをアンタにやるよ。アンタをこの薫りで充たしてやる。それで、いいだろ…?」
そう囁くと、唇を重ねた─。
(ま、好きだってもんをあげるのが一番だよな)