数日前からとにかく目が合った。
何か用事でも自分に提言でもあるのかとその都度聞くのだが、ロベリアはその度に
「別に…」
と一言返して花火のそばから離れた。
そして、今日もまた。
「…あの…ロベリアさん?」
数日間も続くその状態に居たたまれなくなった花火が躊躇いがちにロベリアの目を見つめる。
「何だ?アタシに何か用か?花火」
口角を上げて花火を見つめ返すロベリアは花火がそうするのを判っていたかの様だ。
そんなロベリアに一瞬間を置いた後、花火が言った。
「ご用があるのはロベリアさんの方なのではないのですか?」
「ああん?何でだよ?」
にやにやと笑うロベリアはその質問でさえも予想通りだと言わんばかりの表情をしている。
花火は思わずため息を吐いた。
「それは…私の思い違いでなければこの数日ロベリアさんと目が合う事が多かったからです」
「用があろうがなかろうがいつアタシがアンタを見ようがそれがアタシの勝手だろう?そう思わないか?くくっ…」
流石に一筋縄ではいかない。
「そうですね…。私の思い違いだったようですね。すみません」
そうロベリアに頭を下げた花火をロベリアは自分の方に抱き寄せて顔を覗き込んだ。
「…ッチ。何だってそんなに鈍感なんだよ、アンタは」
「申し訳なく思っています…」
「そうじゃない…っ。明日は何の日なんだよ?!」
苛立ちを前面に出して語調を荒げたロベリアの言葉でその事に気付く花火。
「…私の…誕生日ですね…」
「ああ!そうだ!なのにアンタと来たら一向にアタシに言いやしない!」
眉をひそめ不機嫌そうにロベリアが吐き捨てる様に言う。
「私が…ロベリアさんに…?」
ロベリアの不機嫌の理由が自分にあると言われて花火の表情が曇る。
花火のその様子に苛立ちを鎮める様に自分の髪をくしゃと掴むロベリア。
「…悪かったよ。アタシの言葉が足りなかった。アタシはアンタの口から聞きたかっただけなんだ。でも、それもアタシの独りよがりかもしれないけどね」
その告白でようやく。
花火はロベリアの苛立ちの原因を理解したのか一気に頬を紅く染めた。
「…私の我が儘になってしまうと思っていました…」
「アタシはアタシの我が儘だと思ってたぜ?」
「その様な事は…!」
俯き、一つ息を吐くとロベリアの顔をじっと見つめる花火。
「一緒に誕生日を過ごして頂けませんか?ロベリアさんと過ごせたら嬉しいです…」
「…フン。これ以上ない誘い文句だね。アンタもやるじゃないか」
微笑んで花火の額に唇を寄せ、ロベリアが言葉を継ぐ。
「…喜んでアンタの招きに預かるよ」
「…はい。ありがとうございます…」
そっとロベリアに頭を預ける花火と花火の髪を優しく撫でるロベリア。
其処には穏やかな時間が流れていた-。