雑踏にため息を吐く。
肩がぶつかる事などしょっちゅうだ。
人を避けながら歩いて花を楽しむ隙など少ない。
「これのどこが花見なん…?」
昌平の後ろを付いて歩きながら世海が不服そうに呟いた。
「花を見てるのに違いはねぇから花見だろ?」
世海の呟きが聞こえたのか昌平がそう返して振り返る。
「花見言うんはこないせわせんものではおまへん。花の下に座ってゆっくり楽しむものどす。こら風流さが足りまへん」
昌平の言葉を受けて道の端に寄って立ち止まり桜を見上げる世海。
「俺ぁ、このざわついた感じが祭みてぇで落ち着かなくて好きだぜ。桜吹雪の中を歩くのもまたおつなもんじゃねぇか」
本当に嗜好が違う二人なのだ。
世海が再びため息を吐く。
「祭どすか?この人混みが…」
昌平の言葉に再び雑踏に目を向けると祭の賑わいに思えてくるから不思議だ。
風が吹いて桜の花びらが舞い、桜吹雪となって宙を舞う。
確かにこれはなかなか良いかもしれない。
「…今回は郷に従うことにしますわ」
苦笑しながら扇子を開いた世海に昌平がニッと笑う。
「おめぇの言う花見は寮の庭でしようぜ。まぁ、みんな集まっちまうだろうから静かには出来ねぇだろうけどな」
「…せやね。それもええよ。みんなで騒げばええ。…笙さんに迷惑かけへん程度に」
「だな」
二人で桜に視線を移すと宴に思いを馳せて笑った。