『この感情は何だろう。アイリスや織姫が恋と呼ぶものと同じものなのだろうか…?』
研修目的で訪れた巴里で気が付けばグリシーヌと行動を共にする様になっていた。
一緒に過ごしてみるとこれがなかなかに興味深い。
「もう一局だ!」
暇潰しに遊んだチェスであっさり勝ってしまった。
「もう一局…!」
次も結果は同じ。
「くっ…もう一局!」
悔しさを前面に押し出すその表情にそろそろ負けようかなどと考えていると、それに気付いたのか先に言われた。
「まさか力を抜こうなどと思わないだろうな?」
「……良いの?次もボクが勝つよ?」
そう返すと何故だか笑って。
「ならば、私の力不足なのであろう」
「実力をつけて出直すまでの事だ。自らの実力不足である事は不本意であるが、またそなたと一局出来るというのは楽しみだ。レニ、そなたの駒運びは一切の迷いがなくて、見ていてとても美しい」
そんな予想外の事を妙に嬉しそうな表情で言われて何故だか頬が熱くなる。
「うん…。またチェスをしよう」
「ああ。約束だ」
そう握手を交わした。
負けを認める潔さも、自分の実力がそこに止まるのを許さない向上心も持ち合わせていて、その意外性に惹かれた。
初めて会った時はただプライドが高い典型的貴族だと思っていたからだ。
「…うん。約束」
恋かどうかはともかく、今の彼女をもっと知りたいと思った─。