しんしんと冷える。
昼過ぎから降り始めた雪は石畳の道をすっかり白色で覆ってしまった。
注文していた弦が届いたと横浜の馴染みの店から連絡が来ていなければ寮でぬくぬくと暖を取っていただろう。
外套を羽織り直すと昌平は身震いした。
隣を歩く世海に目線を移すと同じ様にこの寒さに身震いしている。
こうなると世海を横浜まで付き合わせてしまったのが申し訳なく思えてくる。
信号待ちの間、世海の襟巻きを直してポツリと昌平が言った。
「…悪かったな。こんな中、付き合わせちまって」
昌平の詫びに世海が首を傾げて答える。
「?付いて行く言うたんは僕やし」
「誘ったのは俺だろ?」
「あー…」
そう頷いてから世海が昌平の顔を思案顔で見つめた。
「?何だよ」
「そもそも独りで行くつもりやったん?」
世海のその指摘に決まり悪そうに目を逸らす昌平。
「あー…」
余りにも図星で返す言葉が見つからない。
初めから世海を誘うつもりだったのだ。
困った様な表情の昌平に思わず吹き出す世海。
「ふふ。存外に寂しがり屋そやしね、昌平は」
顔を覗き込まれて、カッと顔が熱くなる。
どうにも、このところ世海に負けている気がして仕方がない。
何とか反撃出来ないものかと昌平は世海の手を引いて掠め取るように唇を奪った。
「…なっ…!」
思い掛けない昌平の反撃に今度は世海の表情が変わる。
咄嗟に周りを確認したが、特に注目の的にはなっていない様だ。
一瞬であったから大丈夫だったのだろうか。
それにしても油断ならない。
世海は昌平をきっと睨み付けた。
「俺だけじゃねぇだろ?寂しがり屋は。人の布団に勝手に入って来やがるのは誰だ?」
怯むどころか悪びれない様子でそう昌平が返す。
それを言われては敵わない。
「…寒いのかなんし」
俯きながら言った世海の肩を昌平が抱き寄せる。
「…悪い。ムキになっちまった。とっとと用を済ませちまって茶でも飲むか」
居たたまれなさそうに言った昌平に世海から自然と笑みが零れる。
「…そやね。早う済ませよ」
「ああ」
そう再び雪道に歩を進めた。