「ハァ?ナニソレ」
たった今ジオから聞いた信じ難い記念日の存在に源三郎は素頓狂な声をあげた。
「バレンタインデーと言って愛する者に贈り物をする日なのだ!日本では馴染みがないのか?」
眼鏡を押し上げ言ったジオにルイスが微笑んで返す。
「欧州でも宗派によっては習慣がない所もありますしね」
「…亜米利加もそうだ」
ルイスの言葉に一瞬だけ本から顔を上げてヒューゴが頷く。
「へぇー。それが明日なのか!」
うさぎやの最中にかぶりつきながら目を輝かせる源二。
「うむ。花やチョコレートを贈るのが一般的だが、相手を想ったものなら何でも良いと思うぞ」
ジオの言葉にルイスが目を細める。
「そうですね。折角なら相手の印象に残る物を渡したいですし」
「印象に残る物って、例えば?」
源三郎がルイスに問い掛けると意味深に笑ってルイスが答えた。
「ふふ。それは源三郎君がご自分で考えないと」
「おっ。源三郎オマエ誰かあげたいヤツが居るのか?」
「に、兄さんには関係ないでしょ?!」
興味津々に話に入って来た源二に顔が紅くなったのを悟られない様、顔を背ける源三郎。
そんな二人をニコニコと見つめると、ルイスが言った。
「そういう訳で私は明日の準備があるのでこれで失礼しますね」
「うむ。俺ものんびりしていられぬな。失礼しよう!」
二人が去ったのを茫然と見送っていると。
次に立ち上がったのはヒューゴ。
「ヒューゴ…まさか…?」
「…勘違いをするな」
恐る恐る聞いた源三郎にヒューゴがぼそりと答えて去った。
「馬鹿馬鹿しい!」
大袈裟にため息を吐いて興味のない体の源三郎に源二が言う。
「愛するってのはまぁアレだけど、世話になったヤツに…ってのはありだよな!」
「つう訳でオレも行くな!」
バタバタと源二が走り去って一人残された格好の源三郎。
「皆揃って馬鹿じゃないの?!」
そう独り言ちたものの顔が熱いのは何故なのだろう。
「何であんなたれ大福の顔なんか…!」
ハァ…と深く息を吐くと源三郎は
「信じられない!」
と文句を言いつつ出掛けて行ったのだった。