インプリンティング。
刷り込み。
例えば生まれて直ぐのヒヨコに犬の姿を見せると犬を親だと思い込んで追いかけるという。
ごく短い時間で学習したその記憶は長時間持続するらしい。
脳に特定の出来事を刻みつけるのもそう難しい事ではないという事だ。
…ならば。
自分という刻印を刻み込めるのか?
ふとそう思った。
情事の度に唇を重ね、たくさん口づけを交わして愛を囁いた。
すると、どうだ。
ある日の情事の時にアイツがポツリと言った。
「…そなたに口づけをされると切なさが募ってひたすらにそなたを欲しく…何でもない」
途中で口篭もったアイツの顔を覗き込んで言ってやる。
「アタシが欲しくなってそれで?」
甘い声で言ったアタシに忽ちに顔を紅くしてふいと顔を背けるアイツ。
相変わらずアタシの思惑通りで口元が緩みそうになるのを辛うじて抑える。
「アタシを欲しいと思ってくれるのか?アンタは」
耳元で囁く様にそう言うと恥じらう様に頷いた。
「…言葉にしてはくれないのか?」
頬に唇を寄せそう問う。
「…そなたが欲しくなって困る」
「アタシのキスだけで、か?」
消え入る様な声でそう言ったアイツを抱き締め更に問うと小さく頷いた。
「…つまり、アンタはアタシのキスだけで熱くなっちまうって事か…」
わざとアイツに聞かせる様に言うと羞恥心を煽られたのか首を振ってアタシの首元に顔を埋めた。
これは堪らない。
アタシは刻み込めたじゃないか。
思わず肩を震わせて笑ったアタシにアイツが不安そうに言った。
「軽蔑したのか?」
「は?何言ってるんだ?馬鹿だからか?」
「では、何故にそう笑って居るのだ」
「嬉しいからに決まっているからだろうが馬鹿。キスで熱くなるって言われてるんだぜ?」
この事実に自分の躰も熱くなって行くのが判る。
「…そなたの所為だ。そなたが私にそう刻んだから…」
泣きそうな声で返したアイツの唇を奪って言ってやる。
「だったら何が悪い?…アタシの唇も指も熱も吐息も声も、全部アンタにくれてやるって言ってるんだ。…だからアタシを欲しがれよ。全部やる」
「…まだそなたを刻めと言うのか?」
「ああ。だって、まだ足りないだろう?」
アイツの質問に不敵に笑って見せると、いつもの調子で鼻で笑って肩を竦めてアイツが言った。
「…そうだな。そなたをもっと私に寄越せ…」
「…ああ」
甘い声に変わったアイツに口づけると、再びアイツの体の奥の熱が上がった。