「音子さんお買い物の帰りですか?」
両手に紙袋を抱えた音子を見かけて声を掛けるとビクと肩を動かした後、困った様な笑みで返して来た。
「!ルイスさん」
音子のその様子にルイスが聞き返す。
「どうかされましたか?」
「い、いえ、その」
答えに詰まってちらちらと抱えている紙袋を気にする音子。
どうやらその紙袋に何かあるらしい。
「何を買われたんですか?」
ルイスが笑顔でそう聞くと、音子は観念した様にそっとルイスに近付き、袋の口を少しだけ開けて見せた。
「毛糸玉、ですか?」
「はい…。皆さんに普段お世話になっているお礼が出来ないかって思って…」
俯き、頬を染めて口ごもる音子。
「音子さんのお手製なら皆、喜ぶと思いますよ」
頬を染めた音子を目を細めて見つめながらルイスが微笑んで返すと、その言葉に安心したのか音子から安堵の息が漏れた。
「ルイスさんにそう言って頂けると心強いです。源三郎くんには受け取って貰えないかもって思ってたから…」
「ふふ、大丈夫ですよ」
「ところで、何を編まれるんですか?」
「はい。襟巻きです」
「私の分もありますか?」
音子が誰かを欠いて作る訳などないと分かっているのに音子の口から自分の分もあると聞きたくてルイスはそう質問した。
(わざわざ確かめるなんて子供ですねぇ、私も。源三郎の事は言えないですね)
「勿論です!」
妙に力強く頷いた後、恥ずかしさが込み上げてきたのか小さい声で音子が言った。
「ルイスさんを忘れる訳ないじゃないですか…」
「はい。ありがとうございます。音子さんお手製の襟巻き、楽しみにしていますね」
(本当に可愛らしい方だ。思わず抱き締めたくなりますね)
「頑張ります!…あ、でも」
「?」
「他の皆さんには内緒にして頂けませんか?驚かせたくて…」
申し訳なさそうな音子に微笑みながらルイスが返す。
「分かりました。音子さんと私の秘密ですね」
人差し指を口に当ててそう返すと、音子ははにかんで頷いた。
「はい」
(…全く。独占したくなりますね)
ため息を吐くとルイスは苦笑した。