こたギー

 咳をする度に例え様のない不安に襲われて、眠れぬ夜を幾度となく越えて来た。
 病院のベッドの上に丸まりながら咳を抑え込んで耐えて。
 未来に期待など持てなかった。
 …それなのに。
 期待の持てなかった未来が少しずつ延びてきて、生きて、大人になって。
 今はこうして祖国から遠く離れた日本に居る。
 「不思議なものだねぇ」
 薬を飲んだ後、鼓太郎から水を受け取りながらギースがしみじみと言った。
 「え?何が?」
 ギースの背中を擦りながら鼓太郎が首を傾げる。
 「子供の頃は入退院を繰り返していたから、今ここにこうして居ることが不思議だって思ったんだ。同室のお前に迷惑ばかり掛けているが」
 ギースのその言葉に大袈裟にため息を吐く鼓太郎。
 「呆れているのか?迷惑ばかり掛けているから」
 「違うよ!何回言ってもギーさんは解ってくれないって呆れたの!」
 「?どういう?」
 「あのね!僕はこうしてギーさんのそばに居ると楽しいから一緒にいるんだよ?世話してるのも僕の勝手なの!解る?」
 鼓太郎の勢いに少々気圧されてギースの眉がハの字に下がる。
 その顔に更にため息を吐くと鼓太郎はギースを引き寄せる様に抱きついた。
 「…ギーさん日本に来てくれて有難う。ギーさんと出会えて幸せだよ。だから、僕がギーさんを構うのは諦めてね?」
 そう満面の笑みで言うとギースの頬にキスを落とした。

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