「全く、おめぇもハッキリしねぇなぁ」
盃を一気に煽って米田が言った。
「面目ないです…」
同じ様に盃を一気に煽った後、苦笑して大神が返す。
「がははっ、まぁ俺がおめぇの立場でも迷うわな」
笑い飛ばした米田の思い掛けない言葉に思わず顔を見る。
「…支配人にもいらっしゃらなかったんですか?」
「おめぇと違って色男じゃねぇからなぁ、俺は」
大神の唐突な質問に昔を懐かしむようにフッと笑ってから。急に真面目な表情になる米田。
「…怖かったのかもしれねぇなぁ。その人を独りにさせちまうかもしれねぇ事が」
「支配人…」
どこか悲哀の隠った表情に胸が締め付けられて大神は唇を噛みしめた。
「何、辛気くせぇ顔してんだ。おめぇは俺とは違うだろ?」
空になった大神の盃と自分の盃に酒を注いで米田が大神の頭を小突く。
「おめぇは近くで守ってやれる。一緒に生きる道を拓けるだろ?おめぇなら幸せにしてやれるって信じてるんだぜ?誰を選んでもな」
最後にそう付け加えると米田は豪快に笑った。