一触即発。
今の状況を表すに相応しい言葉は何かと問われれば、そう表現するのが最も解り易いだろう。
睨み合ったまま十数秒は動かない二人の周りの空気はピリピリと張り詰めていて常人ならば疾うにその場から逃げるだろう。
だが、同席していたのはグリシーヌとサジータだったから慣れたものだった。
「…ロベリア、そなたもいい加減昴に突っ掛かるのは止めておいたらどうだ」
「昴、あんたもだよ。あんたらしくもない」
呆れ顔で諫めた二人の声が耳に入っていないのか、依然として睨み合うロベリアと昴。
「…この能面を剥がすまでは止めないね」
「…君のその自信に満ちた顔を負かそうか」
どちらかが退く気配など僅かにでも見えない。
大きくため息を吐くとグリシーヌが言った。
「…仕方のない奴等だ。此処では周りの迷惑になる。続けるならば、場所を変えてはどうだ」
グリシーヌの提案に扇子を開くと目を細めて昴が頷いた。
「…昴は言った。グリシーヌの言った事は尤もだと」
「…チッ。外で決着を着けようじゃないか。逃げるなよ?昴」
挑発する笑いを浮かべたロベリアの後を追うように昴も席を立つ。
二人が去って、張り詰めた空気から解放されたバーのあちこちから一気に安堵の息が漏れ聞こえてきて、残されたグリシーヌとサジータは顔を見合わせて苦笑したのだった。
険しい表情のまま、店の外に出るロベリアと昴。
外に出るなりどちらからともかく路地裏へと歩を進めて。急に肩を震わせて笑うと、ロベリアは昴を壁を背にして立たせると頬を撫でた後に深く唇を重ねた。
「…くくっ。いつまで続ける気なんだよ?昴」
昴の唇を食みながらロベリアが聞く。
「…ずっとだ。…君と僕はそう思われている方が何かと都合が良い」
ロベリアの舌を絡み返して昴が返す。
「…何かと、ねぇ」
含みを持たせてそう笑ったロベリアに昴の目が険しくなる。
「何だい?」
「いや?別に?アタシはアンタとこうする事が出来るなら何でも良い。こんなアンタを見られるのもアタシだけで良い」
ロベリアその言葉に昴の頬に熱が集まる。
それを分かっているのか今度は昴の耳元に唇を寄せるロベリア。
「…誰にも見せるなよ?こんなアンタはアタシだけが知っていれば充分だ」
「……他に見せる相手など居ない」
消え入るような声で呟いた昴の頬を指で撫でるとロベリアは
「当然だ」
と耳朶に歯を立てた。