「まずは初めに」ロ花 105,000打リク (12/02月作成)


 外灯からの僅かな灯りを頼りに花火は其処を歩いていた。
 空はすっかり濡羽色に染まり、月が其処を支配している。
 吐く息も白くしんしんと冷える巴里の冬の夜。
 前を歩くロベリアが時々後ろを振り返ると、花火はただ笑顔で頷いて返す。
 ちゃんと付いて来ているという意を表しているのだろう。
 花火からしてみれば、突拍子以外の何でもないロベリアの誘いに少し驚いた顔をしただけですぐに「わかりました」と頷いた。
 ロベリアからしてみればもっと怖がるのだろうと思ったし、もっと戸惑うだろうと思っていた。
 …何せ今二人が歩いているのは屋根の上だ。
 それも、付き合い始めて初めて二人きりで出掛けるというのにだ。
 普通だったら文句の一つや二つ出ても良いところだ。
 なのに、花火と来たら嫌みの一つも言わないでただ黙って付いて来ている。
 ふと立ち止まって振り返ってロベリアが花火に言った。
 「…あんたって文句を言う事があるのか?」
 そのロベリアの言葉に首を傾げると頬に手を添えて花火が答える。
 「ないですね」
 「ない?一つもか?」
 「そうですね」
 当然の事のようにそう答えた花火に呆れた様に大きくため息を吐くロベリア。
 そんなロベリアを不思議そうな顔で見つめる花火。
 「あの…私何か失礼な事を…?」
 「あんたはさ。嫌だ納得出来ないって思う事はないのか?」
 ロベリアのその質問すら花火にとっては思い掛けなかったのか再び首を傾げる仕草を見せる。
 「あー、もう解ったよ。聞いたアタシが悪かった」
 「すみません…。本当に疑問に思った事がないのです」
 申し訳なさそうに頭を垂れる花火。 
 「別にあんたに謝って貰いたい訳じゃない。…だが、一つだけ聞く。アタシと付き合えよってあんたに聞いた時、あんたは嫌だとは思わなかったのか?だって、普通じゃないだろう?」
 「でも、ロベリアさんは悪い方ではありませんし。それに…」
 言葉を濁して頬を染めた花火にロベリアが聞き返す。
 「あんたもアタシを悪くないって?ああ、あんたは否定しないんだったね。…はっ、今のはそれじゃ誘導尋問だな」
 言った後に自嘲気味に笑うロベリア。
 「いいえ。私もロベリアさんをお慕いしてあの…」
 ロベリアの言葉を否定して顔を真っ赤にして俯く花火は今にも倒れてしまいそうだ。
 その花火にようやくロベリアから笑みが零れる。
 花火の頭に手を伸ばして撫でると、安定した足場を選んで花火の腰を抱いた。
 「もう疑わないよ。あんたから初めて否定の言葉も聞けたしね」
 「あ…」
 気付かないうちに「いいえ」と答えていた自分に自ら驚く花火。
 「少なくともあんたはあんたの意志でアタシのもんになってくれようとしている訳だし、今夜だってこうして来てくれた訳だ」
 嬉しさを隠せないのか上機嫌に笑って言ったロベリアにコクリと小さく頷いて花火が応える。
 「…なぁ、花火。空を見てみろよ」
 ロベリアに言われて空を見上げると普段は街灯の灯りでぼんやりと見える星がより鮮明に輝いている。
 「…綺麗です…」
 「…空が近いだろ?アンタがいつもいる墓よりもずっとフィリップに近いぜ?」
 ロベリアの口から出た思い掛けない名前に花火の表情が一瞬驚きの表情に変わる。
 「そうかもしれませんね…」
 「無理に忘れろとは言わないさ。でも、ずっと想い続けられているのは癪なんでね。今日はフィリップに言おうと思ってさ、あんたはアタシが貰うってね」
 「ロベリアさん…」
 花火の額にキスを落とすと空を見上げて勝ち誇った様に笑みを浮かべるロベリア。
 「そういう訳で花火はアタシが貰うよ?フィリップ」
 同じ様に空を見上げる花火の顔はずっと朱に染まったままで、暫くは引きそうにない。
 ロベリアはそんな花火に目を細めるとそっと肩を抱き寄せた。

 

~あとがき~

105,000打キリリクは「ロベリア×花火(白)で、付き合い始めて初めてのデート」でした。
最近、灰色か黒の花火さんばかりだったので思い出すのに時間が(^_^;
「白花火さん白花火さん…」「ゲーム本編」「ああ、”空気を読む”とか言わない感じの」「そうそう」「なるほど…」
上記のやりとりをダンナと数回しました(笑)
もとい、花火さんと恋人として付き合うとなるとフィリップの事は避けられない訳で、ロベリアはそういうところをさらっと決めてくれる気がします。
大人向きではないという指定も初めてでしたが(笑)、楽しく書かせて頂きました!

ポタシウムさま、ありがとうございました!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です