冬の海というのは妙に哀愁が漂っていて、見ているだけで鼻の奥がツンとする様な感覚を覚える。
加えて、空がグレイの雲に覆われていて更にそんな感傷に浸りやすくさせる気がする。
ぼんやりとそんな事を考えて海岸から海を見つめるグリシーヌ。
そんなグリシーヌを見つけると歩み寄って後ろからグリシーヌの首元にマフラーを巻くロベリア。
「…何がそんなに哀しいんだ?」
海を見つめて、泣きそうな表情をしているグリシーヌにそう問う。
「何故だか解らぬが冬の海を見ていると妙に感傷的になってしまうのだ。そなたはならぬか?」
「生憎とアタシはそんなに繊細に出来てないんでね」
いつもならばロベリアのこういった言葉に「馬鹿にするな」などと言い返すグリシーヌだが、海から視線を逸らす事なく真っ直ぐ水面を見つめている。
これでは全くからかい甲斐がない。
海に何かあるなどと言い出しかねない様子だ。
グリシーヌのその様子に抱き締めていた腕を解き、グリシーヌの正面に立つロベリア。
「…シレーヌでも見えるのか?」
海から視線を外さないグリシーヌを訝しそうに見ながらロベリアが言う。
その歌声で海の旅人たちを魅了して船を遭難させるという神話の怪物を引き合いに出したロベリアにクスと笑うと、ようやく海から視線を外してグリシーヌが返す。
「ふふ。そうかもしれぬな」
「馬鹿にしてるのか?」
笑って言ったグリシーヌに半ばホッとしながらそれを悟られない様に不機嫌そうな表情を作るロベリア。
どうやら正気ではある様だ。
「そなたからその様な事を言われるとは思っていなかったからな。少し驚いただけだ」
「昔、少し聞いた事があるだけだ」
「ほぉ…」
「何だよ?」
物珍しそうな声を上げたグリシーヌにロベリアが聞き返す。
「いや、そなたはあまりそういう話をしないからな。そなたの過去に少し触れる事が出来た様で嬉しく思う」
表情を緩めて言ったグリシーヌの頬に気付けば自然に手で触れていた。
頬にあるロベリアの手に自分の手を重ねると、頬を少し染めてグリシーヌが言った。
「これからもこんな風にもっとそなたの事を教えて欲しい」
普段は思うがままに振り回されてる癖に、いとも簡単に胸を満たす様な言葉を紡いでくる。
(振り回されてるのはアタシか…)
一瞬、苦笑してからいつもの表情に戻ってグリシーヌの耳元に顔を近付けるロベリア。
「…ああ。教えてやるよ、アタシの熱を全部ね」
囁いて息をフッと吹きかけると、慌てて耳を隠して一気に赤面して。
「そ、そういう事ではないっ。大体、まだ昼間なんだぞっ?!」
「時間なんて関係ないさ。ここでアンタを捕らえておかないとシレーヌにアンタを奪われちまうからね」
「ロベリアっ…!」
「ちょっと黙ってな…」
グリシーヌに巻いたマフラーをグリシーヌの口元まで上げ、グリシーヌをぎゅっと抱き締める。
「…何処にも行くなよ?」
願いにも似た命令に静かに頷くとロベリアの背中に腕を回しグリシーヌが返す。
「…何処に行くというのだ、馬鹿者…」
「…そうだな」
抱き締めていた腕を解いて横に立ちグリシーヌの肩を抱き寄せるロベリア。
ロベリアに寄り掛かるグリシーヌ。
二人でただ海を見つめる。
そんなある冬の日の事。
同じプロットでSSを書いてみよう企画-。
時間:昼間、場所:冬の海、単語:マフラー、CP:ロベグリでございました。
いちゃいちゃが足りない気もしますが、どうなんでしょう?(^_^;
いや、頭使いました!(笑)
あ、シレーヌはセイレーンの仏語読みです。