「誕生日おめでとう、すみれくん」
大神のその声を合図に気恥ずかしさを感じながらロウソクの炎をそっと吹き消す。
こんな風に誕生日にロウソクの炎を吹き消したのなどいつ以来なのだろう?
家が家だけに誕生日は祖父に取り入ろうとする大人たちの社交辞令の祝いの言葉をひたすら聞く場だった。
「ありがとうございます。先生」
ホテルでの豪勢なパーティーでもないし贅沢な料理もないが、大神の部屋で二人でこうやってケーキを囲んで過ごす誕生日をとても幸せだと思う。
「まぁ、ケーキ位しか用意出来なかったんだけどね」
そう苦笑した大神に首を振るすみれ。
「今までで一番嬉しいですわ」
そう微笑んだすみれの頭を撫でてから
「ありがとう。俺も君の誕生日を祝えて嬉しいよ」
と大神が笑顔で返す。
「…夜には家に戻らないといけないのが申し訳ないのですが」
表情を曇らせるすみれ。
祖父主催の誕生パーティーなど放り出して大神と過ごしていたいのにそう出来ない自分がもどかしいと思う。
「本当は君を攫いに行ければいいんだけどね。君が大人だったらそうしてたかもしれないな」
すみれを後ろから抱き締めて大神が言う。
「先生…」
「…でも、今は君が帰るギリギリまでしか君を捕らえる事が出来ないから、その覚悟だけしてくれる?」
熱の篭もった声でそう囁けば、すみれが小さく頷いて。
「早く大人になりたいですわ…」
前に回された大神の腕に自分の手を重ねるすみれ。
「それまで君のそばに居させてくれる?」
首筋に顔を寄せてから、真剣な顔になって大神が言う。
「…先生だけが私を捕らえる事が出来ますのよ?」
「うん。解ってる」
だからこれからも覚悟してねと笑うと大神は口づけた─。