もうこの日何度目の対局になるだろうか。
『そなたに勝つまで止めぬ!但し、手加減などは無用だ!』
そう言い放ったグリシーヌに付き合ってチェスに興じる昴。
手加減も出来ない上に攻撃の手を緩めたら気付かれてしまうだろう。
扇子を開いて思わずため息を吐いた昴に口角を上げてグリシーヌが言った。
「フッ。何故、チェスの相手を引き受けてしまったのかという顔だな」
その指摘にグリシーヌを見つめ返して昴が言った。
「そろそろ止めにしないか?これ以上やっても同じだ」
「ほぅ…。では、私ではそなたに勝てないと申すか」
昴を半ば睨み付ける様にグリシーヌが見つめて、二人の間に緊張感が走る。
その鋭い視線に気圧される事なく真っ直ぐに見つめ返して昴が言い返す。
「…今の君の実力ではね」
「では、将来的にはその可能性はあるとそなたは申す訳だな」
「ああ。…何せ君は負けず嫌いだからね。強くなる事に時間を惜しまない。一つだけ助言するならば、今の君の戦術は君そのものと言える事だ」
「ほぅ…?どういう事だ」
「君と同じで真っ直ぐ過ぎる。正攻法過ぎるのさ」
「正攻法の何処が悪いのだ」
「次の一手が読みやすいと言う事だ」
「ほぅ…なるほど」
昴の言葉を腕組みして聞きながら、不敵な笑みを浮かべるグリシーヌ。
目を細めると、手を伸ばして昴の手を握り自分の方に引き寄せる。
そして、その手を自らの口元に持っていくと軽く歯を立て甘噛みした。
グリシーヌの唐突な行動に昴の目が瞬間的に揺らぐ。
その表情を見届けると満足そうにグリシーヌが笑って。
「そなたの言う通りだな。奇をてらった戦法も時には必要な様だ。良い勉強になったぞ?」
その言葉に苦笑して昴は溜息を吐いた。