バーを出た途端に降ってくる声。
「…遅い!」
眉をひそめてグリシーヌが言う。
「待ってろなんて言ってないだろ」
声を背後に歩き始めるロベリア。
「ま、待っていたのではない。たまたま近くを通りかかっただけだ」
そうロベリアを追いかけるグリシーヌ。
だが、近くを通りかかる様な時間ではない。
「たまたま、ねぇ…」
そう呆れた様にため息を吐いてから、グリシーヌの方に振り返り、唇を重ねるロベリア。
一瞬の驚きの後、待ちかねていたとばかりにそのキスに酔いしれるグリシーヌ。
「…今日はこのキスで満足しろよ」
そのロベリアの言葉に聞き分けられないとばかりに頭を振って答える。
「何故だ?満足など出来る訳が─」
グリシーヌの言葉を遮る様にロベリアが返す。
「今日はそれで満足しろって言ってる」
「解らぬ」
駄々を捏ねる子供の様なグリシーヌの肩を掴んで壁に押しやるロベリア。
「…ガキが!」
押し殺した様な低い声で舌打ちをして、その首筋に歯を立てて噛み付く。
「…っ…」
思わぬ痛みにグリシーヌの顔が歪む。
「これ以上の痛みに耐える覚悟がアンタにはあるのか?」
自嘲気味に笑いながらロベリアが問う。
「…これが痛みだと?笑わせてくれる」
ロベリアの問いに不敵に笑ってグリシーヌが答える。
「今なら間に合うって言ってやってるんだぜ?」
「元よりその気はない」
そう断言するグリシーヌの真意をはかる様にまじまじと見つめるロベリア。
「…頑固なお嬢サマだな」
「そなたが勝手に手放そうとするからだ。私にそのつもりはない」
「後悔するなよ?」
「そなたが私に後悔などさせる間を与えなければ済む話であろう?」
「…ああ、そうだな」
そう笑ってキスを交わした─。