「…昴」
聞き覚えのある声に呼ばれて振り返るとサジータに手を掴まれた。
何事だと顔を見上げると何故かシルバーフレームの眼鏡を掛けている。
何も言わないで引っ張られるままに付いていくと、パークの人影の少ない木陰に連れて来られ、木を背にする様にしてそこに押し付けられた。
「…僕に何の用なんだい?」
白々しくそう問い掛けると眼鏡越しに熱い視線で見つめ返して来て。
「解ってる癖にわざわざ聞くのはアンタらしいね」
視線を少しも揺らがせる事なくそう答えるサジータはどうやらいつもと少々違う様だ。
「そうかい?それで?」
「…アンタに触らせろよ、昴」
「……」
熱を帯びた声でそう囁かれるが、いつもなら何処か残っている羞恥心が今日は見受けられない。
「断ったら君はどうする?」
反応を見るためにそう返してみる。
「断らせる訳がないだろう?」
低い声で笑いながらサジータが言った。
「…なるほど」
そうなると結論は一つ。
いつもと違うものはそれしかない。
「…ところで、君が視力が悪いという話は聞いた事がないが」
そう眼鏡に視線を移して見せると一瞬、目に動きが見えた。
「アタシの事はいいだろう」
どうやら、僕の推測は当たっていたらしい。
どういう構造かは不明だがあの眼鏡には性格を少々不敵に変える作用がある様だ。
「で。どうなんだ?昴」
僕に顔を近付け、サジータが迫ってくる。
「…そうだね」
眼鏡を奪い取ってこの状況を脱するのは直ぐにでも出来そうだ。
それなら、いっそ─。
「…君の言う通りにしようか、サジータ」
いっそ、この場を楽しむのも手か。
サジータの手が僕のネクタイにのびる。
その引き抜く衣擦れを合図に僕は目を閉じた─。