「Jalousie」大神×メル (11/06月作成)


 都市迷宮化事件も無事に解決を迎え、大帝国劇場の中庭で事件の収束と皆の無事を祝ってパーティーが開かれた。
 三都華撃団のメンバーが一同に会してるだけあって、とても華やいでいてそれに加えて賑やかだ。
 メルはシーの隣で宴を楽しみながら、何とはなしに大神の姿を捜してみた。
 ふと視線を振ったその先に大神の姿を見つけて、思わず口元が綻ぶ。
 だが、視線の更にその先に見えたのは紐育華撃団副司令のラチェットと親しげに話す大神。
 ラチェットの方も楽しそうで、端から見るととても似合っているように見えた。
 そして、先日偶然聞いてしまった事を思い出す。
 『…大神司令、あの時は本当にありがとう。あなたのおかげで今の私が在るわ』
 『俺は何もしてないよ。そう思えるのは君自身の力だよ、ラチェット』
 とても、信頼しているのだなと思った。
 大神の事だから、巴里でもそうだったようにラチェットを救ったんだろう。
 でも、何故だか大神が遠くに居るような感覚に襲われて胸が痛くなった。
 それが顔に出てしまったのかシーが心配そうにメルの顔を覗き込む。
 「どうしたの?メル」
 「え?あ、何でもないわ」
 「…ね。メル。大神さんとこ行こう!」
 そうメルの手を取るシー。
 やはり、親友にはお見通しらしい。
 「え、でも。大神さんお忙しそうだし…」
 「何言ってんの!メルを放って置く事が仕事じゃないでしょ!」
 そう言うとシーはメルの手を引っ張って大神の所へと向かう。
 「大神さん!」
 ラチェットと談笑している大神の前に立ち、大神を呼ぶ。
 「シー君、どうしたんだい?」
 「どうしたんだじゃないですよ、もう!メルを、」「な、何でもないんです!」
 シーの言葉を最後まで言わせないようにメルが割り込む。
 そんな様子を見ていたラチェットは何かに気付いたように微笑むと言った。
 「それじゃ、大神司令。私、向こうに行って来るわ」
 「ああ」
 グラスを持って歩き出し、ふと立ち止まるラチェット。
 「ねぇ。一つだけ聞きたかった事があるのだけれど良いかしら?」
 「俺で答えられるなら」
 「あなた程の人があの時、要請に従わなかったのは何故?」
 一瞬の沈黙の後、肩を竦めて大神が言った。
 「今の君になら解ると思うけどね」
 大神の言葉でメルの方に視線を向けるとラチェットは再び微笑んで頷いた。
 「…そうね」
 「それに、君にはその方が良かっただろう?」
 そう笑った大神に頬を染めて肯定するとラチェットは新次郎の方へと歩いて行った。
 何やら、意味深な二人の会話を端で聞きながら複雑そうな表情のメルに大神が言う。
 「メルくん、ちょっと酔い覚ましに付き合って貰えるかな」
 「は、はい」
 「シーくん、メルくんをちょっと借りるよ」
 そう言った大神にシーが物言いたげな目で返す。
 「しょうがないですねぇ、大神さんだったらいいですよ」
 シーの肩をポンと軽く叩くと、すれ違い様に「大丈夫だよ」と呟いてメルとともに中庭をそっと抜け出して行った。
 二人の後ろ姿を見つめながら、シーが独り言ちる。
 「あれで自覚があるんだから質が悪いんですよねぇ」
 そうため息を吐くと、再び宴の輪の中に入って行った。

 

 中庭を出ると大神は帝劇の二階へと向かった。
 メルも不安そうな表情で大神の後をついて行く。
 はたと一つの扉の前で立ち止まる大神。
 「…こちらは?」
 「俺の部屋だよ」
 そう言って、扉を開けると巴里の大神の部屋と同じ匂いがメルを包んだ。
 まだ数日程しか離れていないというのに凄く懐かしい気がする。
 「どうぞ、入って」
 「はい、お邪魔します…」
 そう促されてやや緊張した面持ちで部屋に足を踏み入れるメル。
 扉を閉めると同時に鍵も閉めると、大神はメルを抱きしめた。
 「…何か言う事があるんですか?」
 大神に抱きしめられながらメルが呟くように言う。
 「どうしてだい?」
 「…大神さんは何かあると私を抱きしめるからです…」
 そのメルの言葉に苦笑すると、大神はメルの髪を撫でた。
 「…俺に言いたい事はある?」
 メルをベッドに座らせ、自分も隣に腰掛けるとメルの顔を覗き込むように大神が問う。
 相変わらず狡いとメルは思う。
 「あって…欲しいですか?」
 「メルくんからならね」
 自覚しているのだこの人はとため息を吐くメル。
 諦めたように話し始める。
 「…大神さんがラチェットさんとお話しされているのを聞いてしまったんです」
 「エイハブに乗った時かな?」
 「!気付かれていたのですか?!」
 「何となくだけど。メルくんの様子が少し余所余所しくなったのがそれからだった気がするんだ」
 大神に気付かれていた。
 メルくんの顔が恥ずかしさで朱に染まる。
 つまらない嫉妬だとか思われただろうか。
 「…ヤキモチを妬いてくれたんだよね?」
 そう指摘されて更に顔が赤くなる。
 思わず手で顔を覆うメル。
 「…大神さんとラチェットさんがとてもお似合いだって思ってしまったんです…」
 俯き、顔を隠したままメルが言う。
 「俺とラチェットは何でもないよ?」
 「解ってはいるんです…。でも、」
 そう言葉を濁すメル。
 恐らく先程のラチェットとの遣り取りの事を言っているのだろう。
 表情を曇らせているメルを見つめた後、大神が話し始める。
 「メルくんには言ってなかったけど、紐育には俺が行く事になっていたんだ」
 「え?」
 思い掛けない言葉に顔を上げて大神の顔を見るメル。
 そんなメルに笑いかける大神。
 「”紐育華撃団の隊長として出来たばかりの実戦部隊を育てて欲しい”そう言われてね」
 「巴里の時のように…ですか?」
 「ああ。だから、俺は紐育華撃団の隊長を探し始めた。若いチームには若い隊長の方が良い。衝突や試行錯誤を何度も繰り返しながら、ともに成長も出来るからね。それに、連携体制等も含め新しい隊長は必要だ。そこで、軍に協力を要請して士官候補生たちの霊力測定と適性を測って貰った。そこで白羽の矢が立ったのが新次郎だ。新次郎が士官学校で成績優秀だったのは知っていたけど、まさか霊子甲冑を動かせるだけの霊力を持ち合わせているとは思ってもいなかったから驚いたよ。だが、驚いたと共についてるとも思った。俺も新次郎の事はよく解るし、新次郎も俺の考えや性格をよく知っているからね。新次郎なら紐育でも頑張ってくれると信じていた。案の定、紐育は其れでうまくいった」
 勿論、いろいろあったみたいだけどねと最後にそう付け加えて微笑む大神。
 急に降って来た事実にメルの頭が混乱する。
 「それで、あの…」
 うまく情報が整理できない。
 結局、其れはどういうことなのかという事を。
 「もう君と離れたくなかったんだよ」
 一言で集約するならその一心で。
 「それじゃ、」
 みんな私の為なんじゃないですかというメルの言葉は言葉にならなかった。
 それ以上は言わないでと大神がメルの口に自分の人差し指を当てたからだ。
 「俺がそうしたかったんだから、メルくんの為だけじゃないよ?」
 「でも、」
 要請に従わないなど、自分の我が儘と引き替えにしてはならないものだ。
 どうしていいか分からなくてメルの目から涙が溢れる。
 そんなメルの頭を抱き寄せ、大神が言う。
 「黙っててごめん。驚かせてしまったね」
 大神の言葉に首を振るメル。
 「…いいえ。お話しして下さってありがとうございました」
 「俺は君と毎日を過ごしていきたい。それは俺の我が儘かも知れないけど、付き合ってくれるかい?」
 メルの涙を指で拭いながら、語りかけるように優しくそう言った大神をメルが見つめる。
 そういう風に自分を狡く見せることも厭わないのだ。この人は。
 「…はい」
 頬にある大神の手を握りながらメルが頷く。
 「ありがとう」
 そうメルの指先に口づける大神。
 ようやく霧が晴れたのかメルから自然な笑顔が零れ、そんなメルを愛おしそうに見つめながら微笑み返す大神。
 巴里に戻ってからの暮らしはまた一層の輝きを増す事だろう─。

 
 「ところで、一つお聞きしてよろしいですか?」
 「ん?何だい?」
 「さっき、中庭でラチェットさんとお話しされていた事です」
 「ああ。俺が行かなくて良かったって事?」
 「はい」
 「まぁ、隠す事もないか。…ラチェットと新次郎は恋人同士なんだよ」
 「!」
 だから、結果オーライだったんだよと悪戯っぽく笑った大神に頷きながら思いも寄らなかった答えにメルは頬を染めた─。

 

~あとがき~

リクエストは「君ある設定でラチェットにヤキモチをやくメル」でした。
リクエストという形をお借りして書きたかった話を書いたような気がします。
もう本当にメルが好きで、大メルが好きだ(*´Д`*)
タイトルは「ヤキモチ」の仏語訳です。

ちょっとだけ、言い訳。
尺が他のリクお題よりちょっと長いのは他のリクお題より出ている人が多いからです( ̄ω ̄;)
悪しからず。

日向 憂さま、リクエストありがとうございました!

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