「衣装部屋にて」カンナ&グリシーヌ (11/05月作成)


1927年春。
蒸気機関暴走事件の解決に協力する為に緊急出撃した巴里華撃団。
ひとまずの収束に安堵の息を吐き、再会に歓喜の声を上げる。
─そして。
唐突だが、グリシーヌは大帝国劇場の衣装部屋に居た。
折角来たのだからこの大帝国劇場を始めとするトーキョーでの時間を楽しむ事になったからだ。
手始めに東洋一の劇場と称されるこの劇場を見学し、グリシーヌはひとしきり感心をした。
シャノワールとは劇場の性質を異とするので比べられないが、同じ巴里にあるオペラ・ガルニエと比べてもさほどの遜色はない。
ガルニエほどの見た者を圧倒するような絢爛さはないが、細部まできっちり仕事をしてある上品で落ち着いた内装はとても好ましく思えた。
その中でふと立ち止まった衣装部屋で目が釘付けになった。
きちっと整理されながらも所狭しと並ぶたくさんの舞台衣装の数々。
それらはグリシーヌの目から見ても材質、縫製ともに素晴らしい物だった。
思わず、手近にあったその中の一着を手に取るグリシーヌ。
そこに通りかかるカンナ。
衣装を見つめているグリシーヌに声を掛ける。
「ん?アタイの衣装持って何してんだ?」
驚きもせず、振り返ってそれに答えるグリシーヌ。
「ああ、これはそなたの衣装であったか」
「ああ。こんなに大きいのはアタイしかいねぇだろ?」
そう豪快に笑うカンナ。
つられてグリシーヌも笑う。
「ふふ、確かにそうだな。それにしてもこの劇場の衣装は素晴らしい出来映えであるな」
「それは裏方さんたちが喜ぶよ。アンタは嘘は言わなさそうだもんな」
「如何にも。私は本当の事しか言わぬ」
「いやぁ、嬉しいねぇ!」
裏方が褒められているというのに自分の事のように嬉しそうなカンナ。
本当に気持ちの良い人物だと思う。
「お。そうだ。何ならこの衣装着てみるか?」
カンナのその提案にグリシーヌの目が輝く。
実は少し着てみたいと思っていたのだ。
「良いのか?!」
「勿論!」
「ならば、そなたの言葉に甘えるとしよう」
そう手にしていた衣装を羽織るグリシーヌ。
それはカンナが「愛ゆえに」の時に着ていたものだ。
「へぇ、なかなか似合ってるじゃないか」
「そうか?…それにしても」
そうカンナをちらと見るグリシーヌ。
衣装に袖を通してみると、改めてカンナのスタイルの良さに驚かされる。
腕の長さだけではなく、これは少し心境が複雑だがバストもグリシーヌが着ると若干の余裕があるように見えるからだ。
「ん?」
「いや、すまない。何でもない」
「そっか?」
「ああ」
「実を言うと、アタイこういう衣装は少し苦手なんだ。どうにも窮屈でさ。何度も動きやすいように直して貰ってるんだけど、腕を伸ばした途端にビリッといっちまったりしてさ」
どうにも気を付けてないとやっちまうんだよなぁ、そう苦笑するカンナに妙に納得するグリシーヌ。
肉弾戦術であるカラテの使い手であるからには相当に鍛えているのだろう。
この体躯であったら、確かにこれは少しきつく感じるかもしれない。
それでも、その中で最高の動きを掴むのだ。
ダンサーとしてシャノワールのステージに立つようになって、まだ1年と少しだがその大変さはグリシーヌにもよく解る。
観ているだけは伝わらない其れは尊敬に値するものだ。
「何か他にも着てみたらどうだ?」
そう勧めるカンナに一度は頷いたものの少し考えてからグリシーヌが答える。
「─いや、止めておこう。これはそなたたちの歴史であるからな。そなたたちならまだしも客人である私が軽々しく袖を通す訳にはいかぬ」
「そうかい?難しいことはよく解んねぇけど、何か嬉しい事を言ってくれたのは解った。ありがとな」
「こちらこそ良い経験をさせて貰った。感謝する」
「いいって、いいって。ところで、アンタこの後の予定はあるかい?」
「特に決まってはおらぬが?」
「じゃあ、アタイと組み手しねぇか?」
「ほぅ、体術の訓練か。それは興味があるな」
「本当か?それは嬉しいねぇ。じゃあ、行こうぜ。こっちだ!」
「うむ!」
すっかり打ち解けて、和やかな雰囲気で訓練室に向かうカンナとグリシーヌ。
一見、不思議な取り合わせでも何処か似ているところがあるのかもしれない─。

 

~あとがき~

リクエストはカンナ&グリシーヌでカンナの衣装ネタでした。
恐らく、コメディを希望されていたのかもしれませんがすみません!!(o_ _)o
思いの外、真面目調になってしまいました(苦笑

ビジュアルに訴える事が出来ないので、個人的にはこれが限界です(;´Д`)
折角、リクエスト頂いたのに反省点多数で申し訳ないです。
いや、でも初コンビだったので新鮮でした!

ラムネさま、ありがとうございました!!

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