ある月の美しい夜。
ブルーメール邸の庭に置かれたテーブルセットに向かい合わせに着いて、ワイングラスを傾けるグリシーヌと花火。
時折、上空に青白く浮かぶ三日月を眺めながら、ワインに口をつける。
どうやら、今宵は月見酒といった風情だろうか。
月に見とれるグリシーヌを邪魔しないように、静かに其処に在る花火。
そんな風に花火はいつだってグリシーヌにとって心地の良い位置に居て、出過ぎない程度にグリシーヌの支えになっている。
花火と居ると、穏やかな気持ちになれるのは確かだ。
思わず、グリシーヌから小さく笑みが零れる。
「グリシーヌ?」
そんなグリシーヌに首を傾げる花火。
「ああ、すまない。そなたと居ると気が休まると思ってな」
本当に助けられていると頷くグリシーヌ。
グリシーヌのその言葉に笑みを湛えて花火が返す。
「いいえ。私こそあなたに助けられてばかりだわ」
「そなたは私の最も大切な友人であるからな。親友を助けるのは当然であろう?」
何でも無い事のようにグリシーヌは言うが、実際問題として邸の提供はおろか巴里において花火が何一つ不自由なく暮らして行けているのは、グリシーヌのお陰だと言っても過言ではないだろう。(無論、北大路家からの余り有る援助もあるが)
それに花火が何よりも感謝しているのは、今ではすっかりかけがえのない存在となった巴里華撃団の面々に引き合わせてくれた事だ。
勿論、パリシィの末裔であるという不思議な縁も手伝ったのかもしれないが、もしそうでなくても皆と出会っていた─と思うのだ。
だからこそ、仲間と呼べる大切な人たちに出会えるきっかけを作ってくれたグリシーヌには感謝してもし足りないと花火は思う。
「ありがとう、グリシーヌ」
そんな気持ちからグリシーヌに深々とお辞儀をする花火。
「どうしたのだ?急に」
急に改まって礼を言った花火にグリシーヌが問う。
「今の私が居るのはあなたのお陰だと思って」
そう微笑む花火。
その花火の笑顔を見つめ、出会った頃を思い返すグリシーヌ。
いつも隣でこんな風に静かな微笑みを湛えていた花火。
昔もたおやかな一輪挿しのようなその笑顔に安らぎを覚えていた。
それは今でも変わっていない。
だが、同じ笑顔でも今の花火には静かな情熱や意志が宿っているように見える。
「─そなたは強くなったな、花火。いや、その強さは元々そなたが持っていたものなのだろう」
眩しそうに花火を見つめながらグリシーヌが静かに言った。
「私がそれに気付かなかっただけなのかもしれぬな…。むしろ、気付かない振りをして自分の弱さを隠そうとしただけなのかもしれぬ。…そなたを守る事で自分は強い人間だと鼓舞していたのだ。そういう風にしか自らを守る事が出来なかった。情けないが、そういう事なのだと思う」
静かに心情を吐露するグリシーヌを見つめる花火。
それは恐らく、グリシーヌが初めて花火に見せた弱さなのだろう。
「グリシーヌ…」
「だから、私の方こそそなたに助けられていたのだ。本当に感謝している」
グリシーヌは真っ直ぐに花火を見つめて小さく頭を下げた。
「ふふ」
そんなグリシーヌに思わず花火から笑みが零れる。
「何だ?」
急に笑い出した花火に不可解そうなグリシーヌ。
「私たち、もう長いお付き合いなのにこんな風にお互いの気持ちを伝えた事って初めてね」
「─ああ。そうだな」
言われて、改めてそう気付く。
笑顔で頷くグリシーヌ。
「ふふ」
「はは」
妙なくすぐったさで笑い合う二人。
「改めて、これからもよろしく頼む」
”哀しみの底に居る親友を守る”
ただ其れだけに囚われていた。
だが、今は違う。
自分の弱さも受け入れる事が出来る。
「私の方こそよろしくお願い致します」
”哀しみの底に居続ける事で永遠を誓おうとした”
ただ其れだけが生きる術だった。
だが、今は違う。
自分の意志で立ち上がる事が出来る。
それも、お互いが居たからだこそだと確信を持って言える。
「私たちの新たな友情に乾杯するとしよう」
そうグラスを掲げるグリシーヌ。
「ええ」
同じようにグラスを掲げる花火。
その夜、ブルーメール邸の庭ではタレブーに苦言を呈されるまで、賑やかな話し声が響いていた─。
リクエストはグリシーヌ&花火のお話でした。
今回は親友としての二人という事で書いてみました。
考えてみれば、この二人だけの話って書いた事がないんですね(^_^;
親友同士なのに何故だろう?
書いている頻度は巴里の中でも多い二人なんですが。
ちなみにカプ的に言うと花グリが好きです(笑
…何だろう。
何を書きたかったって言うと一番最初に思ったのが、グリは花火を守る事で自分を守っていたんじゃないかって事だったのでそこです。
それが根本です。
ポタシウムさま、ありがとうございました!!
こちらこそ、素敵なSSを書いていただきありがとうございます。
SSとは、ずれてしまいますが、
サクラ3をやり始めた時、はっきり言って
グリシーヌは苦手でした。
怖いキャラだなあと(苦笑)
なので高感度は良くなかったはず(笑)
でも、「第五話 ~黒衣の花嫁~」で
花火が出てきて、花火を思うグリシーヌを
見て、グリシーヌなかなか優しいかも!?
と思うようになり、いろいろな
グリシーヌを見てきた結果
今ではサクラ大戦全キャラの中で
グリシーヌが1番好きです。
私の巴里のファーストヒロインはグリシーヌだったりします(*^^*)
確かに初めは相当辺りが強かったですよね-。
織姫さんにも匹敵すると思います(笑
まぁ、姫の例を踏まえて逆に「絶対、デレさせてやる!」位の感じでいました(爆
なかなかこういったSSを書かないので楽しかったです。
ありがとうございました!!